婚約指環は手錠の代わり!?
「怒ってないです」

イライラする。
不可抗力だったとはいえ、私が涼太にキスされたときはあんな態度だったのに。
自分は他の人に渡すためのケーキの材料を、平気で私の目の前で買うなんて。

「もしかして妬いてるのか?」

「妬いてなんか……!」

にやり、海瀬課長の右頬が歪み、かっと顔が熱くなる。

妬いてる、確かに。

 
その夜、なぜかご機嫌な海瀬課長はいつも以上に私をいじめた。
いつも楽しそうなんだけど、今日はとっても嬉しそうで。
疲れ果てて眠りに落ちていく私の髪を、うっとりと撫でている。

「朱璃、……」

後半は意識が眠気で朦朧として聞き取れなかった。
聞き返したくても瞼は開かない。
でも、それがとても嬉しい言葉だった気がして。

はっきり聞けたならきっと、この関係を終わらせなくていいのに……。
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