冷たい雨の降る夜だから
 色々な事が先生に筒抜けな私だけど、さすがにこういう話はしていない。

 私の月のものは、高校1年の2月で一旦止まってしまった。私が自分で思っていた以上に、私の心と身体は道又先輩の事がショックだったらしい。大学に行ってから再開したけれどいつまで経っても周期が安定しなくて。3ヶ月来なかったと思えば、生理痛が酷い上に2週間以上も続いたりして、大学にすら行けない時がある私を心配した母に受診を薦められて、婦人科に行った。

 そして基礎体温のグラフがガタガタで、ホルモンバランスを整えるためにピルを飲む事になった。今でも習慣で基礎体温は計ってるけれど、さすがに体温計までは入ってなかった。

 ピルのお陰で今の基礎体温はすっごく綺麗なグラフ。生理の周期も当然きっちりで、生理痛もほとんど無い。でも、これらの情報を活用するような生活に私は全く縁が無かった。

『まだ若いんだから、いつか子供を産むときのために治療しておいた方がいいのよ。子供が欲しいと思ったときにはじめても、手遅れになるかもしれないんだから』

 そう婦人科の先生に言われたときでさえ、自分はそんなものには一生無縁だと思っていた。なのに、その相手が先生だなんて。確かに私はずっと先生の事好きだったけど、先生への恋は、言葉にしたことも無ければ、実際に付き合う事なんて全く想定したことが無かったプラトニックなものだった筈なのに。

 6年ぶりに先生と会ったら、あっという間に付き合う事になって、距離が近くなって、正直頭がついていけていない。先生との間に時々漂う、甘い空気に流されて良いのかわからない。

 昨夜の事と、避妊具、そしてピル。今そういう雰囲気になってる訳でもないのに、私は先生の事をまともに見れないでいた。

「このくらい、覚悟して付き合ってるから気にするなよ。お前が、フツーに男と過ごせないのなんて7年前から知ってる」

 覚悟ってそれどんな覚悟なの、と思っているのを読んだように先生は言う。

「当分おあずけ喰らうのは覚悟の上だけど、別に俺、草食系とかそういうんじゃないから。その辺は…まぁ覚えとけ」

 あの、そんなにさらっと肉食宣言しないでくださいと思えど口に出せない。
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