冷たい雨の降る夜だから
「はいはい、さっさとご飯を食べる」

 藍にせかされながら、ものすごい手抜き感の漂ううどんを平らげると、食べるや否や藍に食器を下げられた。

「さ、お姉!! やるよ!!」

「……なにを?」

 藍は何に気合を入れてるんだろう? 結構本気でそう思った私の前に、藍はドン! とスーパーの買い物袋を置いた。

「明日は何の日?」

「バレンタイン」

「ですよね?」

 微妙な沈黙の後、相変わらずよく判らずにキョトンとしていると、呆れたようにいわれた。

「だから、お菓子作るに決まってるでしょ!!」

 当たり前でしょ!! と藍に言われて、バレンタインのお菓子を一緒に作る為に今日呼んでくれたんだ、とようやく合点が行った。そして、藍が超絶手抜きのうどんで夕食を作るかわりに、お母さんから台所を貸してもらったのもやっと判った。

「何作るの?」

 藍が置いた買い物袋を覗くと、小麦粉、ベーキングパウダー、無塩バター、チョコレートチップ、ココア。この材料だと、ケーキでも作るのかな? と思っていると案の定、藍が「カップケーキ」と返事をくれた。

「うちの彼氏は甘党だからガッツリ食べるんだけど、お姉の彼は?」

「え?」

「え? って。だからさ、彼氏さん甘いもの好きなの?」

「ああ、あんまり、食べないかな?」

 ふぅん、と聞いているんだか聞いていないんだかよく判らない返事をしながら藍はスマホをいじってる。
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