冷たい雨の降る夜だから
「お姉の彼は何してる人?」

 また答えにくい質問が来た。そう思ったのを気づかれない様に、計り終わった砂糖の袋を片付けに藍の後ろに回る。

「学校の先生」

「学校って、小学校とか中学校とか?」

「ううん。……高校」

「ええ?」

 砂糖を片付けて振り返ると、何か言いた気な表情の藍と眼が合って、私また何か地雷踏んだ? と思わず身構えてしまう。

「付き合いだしたのいつ?」

「2週間くらい前かな」

「知り合ったのは?」

「知り合ったのは……」

 答えようとして、高校生の頃に知り合った12歳も年上の高校教師だなんて、明らかに自分の学校の教師だといってるようなものだと気が付いて口が止まる。実際そうなんだけど、こうして改めて問われると物凄く言い難いのだ。結構真剣な藍の視線に居心地が悪くて目を逸らすと、藍はそれを答えととったようにため息をついた。

「お姉さ、実は高校の頃も今の彼と付き合ってたりした?」

 昔も先生と付き合ってた? 藍に言われた事が全くの予想外で、目が点になった。

「え? 先生と? 付き合って……ないよ?」

 毎日のように放課後に先生の所に通ってはいたものの、あの頃の私は、相手が誰であっても付き合ったりできる状態じゃなかった。実際、先生を男の人なんだと自覚したら、会いに行けなくなってしまったのを考えたら、相手が先生でも付き合うのは無理だったと思う。その位男の人が怖くて堪らなかったし、やっぱり今でも男の人とは出来る限り距離を置きたい。

「ほんと?」

「本当に」

 私と先生は普通の教師と生徒よりは仲が良かっただけのはずだけど、藍の返事は「ふぅん?」と納得してないような響きを持っていた。

「先生って呼ぶってことは、ほんとに自分とこの先生だったんだね」

「……」

 言葉に詰まってしまった私は、無言で藍の言葉を肯定してしまった事になる。
< 107 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop