冷たい雨の降る夜だから
「12歳年上の高校教師かぁ……。お姉、難儀な恋愛してるね」

「そうかな?」

 私には、知らない人と知り合って、すぐに付き合うほうがずっと難儀だ。二人っきりで話をするのも、触られるのも、先生以外の人にはやっぱり嫌だ。

 男の人が苦手な理由を話すのなんて、考えただけで苦痛だし。全部知ってる先生には、今から告白しなきゃいけないことなんて一つも無い。先生の事は、怖くない。他の人だったら、私は絶対に付き合えないと思う。

「うん、だって35でしょ? 独身だとしたらソッコー結婚しなきゃいけなさそうじゃない?」

「そうかな?」

 付き合って2週間しかたっていないから、結婚だなんて話題は一度も出てきたことが無かった。だけど、確かに先生の年齢だけで考えたら結婚してもおかしくない歳だ。

「でも、私、結婚しても特に問題ないかも」

 改めて、先生と結婚? と考えてみると、私としては特に問題が無い気がした。私にとっては先生と会えることがすごく大事。結婚したら会えなくなるなんて事ないんだと思うと、問題よりも嬉しいが勝る。でも、私は良くても先生が駄目かなと思い至った。家事にしろ、料理にしろは、残念なことに先生の方が上手なのだ。料理に至っては、なんでそんなに上手いのか問い詰めたい位、先生は料理が上手い。

 そんなもろもろの事情を考えるとすぐに結婚なんて事はまずありえないと思考を締めくくった。

「あたしは今すぐ結婚とかヤだなぁ。めんどくさいし。でも、お姉がそもそもめんどくさいもんね」

「ちょっと、今のどういう意味?」

 妹とはいえ聞き捨てならない「めんどくさい」発言に思わず傍らの藍を睨むと、藍はちょっと気まずそうに肩を竦めた。
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