冷たい雨の降る夜だから
「だって、お姉大学行ってから変だったもん。だからさ、高校の頃にも今の彼氏と付き合ってて、卒業して別れて、その反動で大学行ってからあんなだったのかなーって思ってさ。ほら、いいじゃん? 教師と生徒の禁断の恋とかマンガみたいじゃん?」

 ケラケラと楽しそうに笑って言った最後の一文はともかくとして、一応、藍は心配してくれてたのだと気が付いた。

「うちらほんとにそっくりだったじゃん。別々に出かけて同じ服買ってきたことだってあったじゃん」

 ああ、そういえばそんなことあったっけと、たどり着いた記憶に小さく笑みが零れた。私は美咲と圭ちゃんと出かけて、藍はお母さんと買い物に行った事があった。帰ってきたら二人とも同じお店の袋をもってて、開けてみたら全く同じ服が入ってたんだった。

「それなのに、今こんなに違うの……変じゃん」

 藍は毎日ばっちりメイクだ。今の彼が美容師だからっていうのもあるかもしれないけど、マメに髪を染めて、姉の私から見たっていつも可愛くしてる。ピアスもしてて、アクセサリーも好き。服の好みだって、大学生活の交友関係だって、何もかもが私と藍は真逆だった。

「だから昨日お姉の彼が、あたしとお姉のこと似てるって言ったとき、びっくりした」

 確かに今の私と藍は全然似ていない。でも、高校の頃の私を知ってる先生には、そっくりに見えたのもよく判る。あの頃の私は、藍とそっくりだった。きっと先生は、藍に高校時代の私を重ねたんだ。

「あたしは嬉しかったよ」

 ケーキの生地の入ったボールに視線を落とした藍の表情はよく判らなかったけれど、少し拗ねたように唇がとがっているのだけが見えた。

 ……私も、嬉しかったよ。

 今も、藍とこうして話すのが久しぶりすぎて。こんな話を藍とすることなんて、もう無いんだろうと思っていたから…… だから、涙が出そうになるくらい嬉しいよ。カラフルなカップケーキの紙型が並んだオーブンの天板が、じわりと滲んで色が混じっていった。

 その後は、二人で黙々と、ケーキを作った。出来上がったカップケーキは、プレーン、チョコチップ、ココアの三種類。焼いているときは、こんなにたくさん焼くの? と思ったのに、出来上がったのを味見したら凄く美味しくて、お互いにプレゼント用のをラッピングした残りは、藍と二人で互いの恋人の話をしながら食べてしまった。

< 109 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop