冷たい雨の降る夜だから
 この間、昔の私とどっちが好きか先生に聞いたら怒られた。先生と過ごしてたのは17歳の私。23歳の今の私とは再会してから2週間も経ってない。先生をどうやって落としたの? と言われたら17歳の女子高生だった私が落としたんだとしか思えない。

 地味で大して女子力が無いのは自分では判っているつもりで居ても、やっぱり藍にまでこんなに言われるとダメージを受けてしまう。

「男にしてみたら、彼女は可愛いに越したことないと思うけど。お姉、可愛いよ。可愛いんだから、ちゃんと可愛くしたらいいじゃん」

 可愛くするという事を、高校を卒業して以来ずっと避けてきた。避けた結果がこの女子力をどこかに落っことしてきた私なのだから、簡単に藍の言うことを聞けないのだ。

「お姉は、彼氏さんの事好き?」

「うん。好き」

 迷わず答えた私に藍は嬉しそうに笑った。

「そこ迷わないならさ、ちゃんと女子で居ようよ。さ~、今日は服買いまくるぞ~! あ、靴はあたしの貸すから。お姉の地味なパンプス履かないでよね」

 楽しげな藍に半ば引きずられるようにして家を後にした時には全く気乗りしていなかったのだけど、藍が結ってくれた髪も、貸してくれた服も、ちょっとだけしてくれたメイクも、春色の服を着たい気持ちを後押しするのには十分だった。

 仕事してからとりあえず貯金していたお金で気兼ねなく、箍が外れたように「今までこんなに服買ったこと無い!」と自信をもって言える位に思いっきり買い物をした。
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