冷たい雨の降る夜だから
「お姉、あたし彼氏の仕事終わったらそのままそっちいくから、彼氏呼んだら? 荷物多いよ?」

 買い物も一段落してコーヒーショップで一休みしながら藍が言う。藍にも持ってもらっている分を考えたら、確かに一人でもって帰るには量が多い。だけど先生のこと荷物持ってって呼び出すの? そんなことしたら、計画的に買い物しろって怒られそうじゃない?

「はいはい、怒られないかなとか考えてる暇あったら電話かけるよー。怒られたらそんとき考えて」

 私そんなに考えてること顔に出てる? と不満に思いながらも渋々先生に電話をかける。

「もしもし、先生? あのね……」

 荷物持ちしに来てほしい、なんてストレートに言っていいものか悩んで言葉を捜していると、隣から伸びてきた藍の手にスマホを奪われた。

「こんにちわー。藍です。お休みなのにお姉連れてっちゃってすみません。大量に服買わせたので、持って帰るの手伝ってあげてくれませんか?
あたし、彼氏のトコ行くので一緒に帰れないので。……じゃぁ場所はお姉から聞いてください。 はい、お姉」

 あっけにとられている私の目の前で、藍は先生との話を終えてスマホを突っ返してきた。

「……もしもし、先生?」

 一体どんな話になったのかつかめないまま耳を押し当てた電話の向こうでは、先生が笑ってた。

「やっぱお前の妹つえーな」

「ごめんなさい」

「いいよ。で、どこいるんだ?」

 今居る場所を伝えて、電話を切った。

「来てくれるでしょ?」

「う、うん」

 藍の行動力は、これでいいのかとか、先生が来てくれても機嫌悪かったりするのではないかとか、いろいろと考え込んでしまう私の思考をあっさりと打ち砕いてしまう。

「お姉はさー、昔っから要領悪いよねー。おかーさんになんか頼むのもタイミング悪いって言うかさ。遠慮して言いそびれたりとかさ」

 確かに、小さい頃から藍のほうがおねだり上手だ。藍が何かしらねだった後、「翠は何か欲しい物ないの?」といつも聞かれていた。自分からこれが欲しいとか、あんまり言った事が無かったかも。
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