冷たい雨の降る夜だから
「お母さん喜んでたよ」

「何を?」

「お姉に彼氏居るの」

「言ったの?!」

「言ったよー。お姉、彼氏んち泊まり行ったから今日帰ってこないよーって一昨日…」

「おとと…!! 適当に言っとくって言ってたじゃん!!」

 それは適当な言い訳を言っておくではなくて、事実を適当なノリで言っただけでは? ……あれ? どっちも適当に言っておくになる? 迷走する私の思考を、藍が呆れた様子で遮った。

「大丈夫だよ、あたしがこんなんだから、ウチお泊りに寛容。もう大人なんだから、変に嘘つくよりちゃんと彼氏さん紹介しちゃいなよ。後は彼氏んとこ泊まりまーすって言えばだいじょぶだから」

「……」

 厳しい家と言うわけでないとは思うけれど、そこまで軽やかにお泊りを了承してくれるものなのか。私の認識と藍の認識は少しズレがあるようだった。ただ、いつも軽やかに私に伝言を預けてくれたりするのを考えると、家の親はそこまでうるさくないのかもしれない。

 しばらくして、先生からメールがきたのでコーヒーショップを出て、よく待ち合わせに使われている駅の広場に向かう。私の心配は杞憂で、先生は別に機嫌が悪かったりすることは全くなく、いつもと全然違う格好の私の頬を軽く撫でて、感心したような表情で言った。

「お前、化けるね」

 いつものように頭を撫でなかったのは、きっとお団子が邪魔だったのだろうと思う。やっぱり可愛いとは言ってくれないんだ、と少し拗ねたのは先生にも藍にも内緒。

 その後の話の流れで、何故か藍も一緒に早めの夕ご飯を食べることになっていた。何でこの3人でご飯を食べているのだろうという気分のままご飯を食べた後に、席を外して戻ったら、藍はもう居なくなっていた。

「ごめんね、なんか無理やりつき合わせちゃって。しかもご飯、藍の分まで」

 先生は当たり前のようにお会計を済ませてくれて、なんだか申し訳なくなる。先生はいつも私に財布を出させてくれない。12歳も歳が違えばお給料も全然違うのわかってるんだけど、やっぱり申し訳ない。

「いいよ、別に。むしろお前らに金出させるほうが無いな」

 先生の言葉は最もなのかもしれないけれど、10以上も年下の私と藍は、先生には子供みたいに見えているのかとちょっと不安になる。先生はそれにしても、と続けた。

「お前よく買ったな、こんなに」

 私達の席の傍らに並んでいる私の今日の戦利品、こと大量に買った春物の服。ベタな例えだけど、本当にお金に羽が生えてぱーっと飛んで行った気がする。でも、今の所全くと言っていい程後悔はしていない。むしろ清々しくて、買った服を着るのが楽しみな位だった。
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