冷たい雨の降る夜だから


 軽くて柔らかい羽毛布団を抱き締める。温もりだけじゃなくて、心地よくて安心する先生の匂いにも包み込まれる気がして、フフッと笑みがこぼれた。好きな人の匂いがこんなにも幸せだなんて、先生に抱きしめてもらうまで知らなかった。

 あったかくて気持ちいい。だけど私、布団で寝た? 布団に入った記憶が無い。

 やっと思考が追いついて、私はゆっくり身体を起こす。ぼんやりしながら見回したその部屋は、先生の家の寝室だったけれど部屋の中に先生の姿は無かった。

 リビングにも人の気配は無くて、時計を見ると23時過ぎだった。私はゆっくりと今日の記憶をたどる。今日は、藍と買い物に行って、先生に来てもらって、ご飯を食べて、それから、先生と一緒にここに帰ってきて…… そこで記憶が途絶えていた。つまり、私は先生の家に帰ってきてすぐに寝たという事なのだろう。一応バレンタインなのに、何をしているんだろう。そんな自分にがっかりしたものの、とりあえず日付が変わる前に起きただけ良いとしようかと思い改める。

 時間的にお風呂かとあたりをつけて脱衣所の扉を開けると、バスルームの明かりがついていた。

「先生?」

 呼びかけると少し水音が聞こえて、その後先生の声がした。

「起きたか」

 バスルームで少しエコーがかかったような声音は、いつもと少し違う響き。

「ごめんなさい。寝ちゃった」

 朝まで寝るのかと思ったと先生がくすくすと笑うから、恥ずかしくて頬が熱くなる。

「楽しかったんだろ?」

「うん」
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