冷たい雨の降る夜だから
「髪、向こうで乾かすから。風呂、さっさと入れ」

「うんー……」

 歯切れの悪い返事をした私の頭を先生はくしゃくしゃと撫でて、部屋に戻っていった。

 先生の部屋に、お泊まり。

 脱衣所で服を脱ぎながら、改めて今の状況を実感する。この間みたいに、何もしない? それとも……?

 目が行ってしまうのは、今日藍と一緒に買った―というか藍に半ば強引に買わされた新しい下着。高校生の頃の可愛い下着とは違う、最近の私が使っていた、飾りっ気も無いシームレスの下着とも違う、レースの綺麗な下着。確かにこれならガッカリはされない、とは思う。

 先生と私は付き合っていて、私は先生の部屋に泊まりに来ている。この状況で何も無いほうがきっと不自然なのだろう。
 
 だけど、私が男の人とそういう事をしたのは、先輩だけ。先輩との事は、今でも考えたくない。思い出しただけでも酷い不安と恐怖と、自己嫌悪に駆られてしまうから、出来れば思い出したくもない。

 先生と先輩は全然違うはずなのに、先生に手首を掴まれたその一瞬で、私の身体は恐怖に支配されてしまった。それまではただ先生に抱きしめてもらえる事が嬉しくて、先生ともっとキスをしたくて……それだけだったはずなのに。

 もし今日そういう空気になって、また出来なかったら今度こそ呆れられて終わりになってしまう気がして、それを思うとやっぱり怖くて堪らなくて…… 結局私の思考はぐるぐると同じことばかりを繰り返してしまっていた。
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