冷たい雨の降る夜だから
大切なもの
 月曜日、お昼休みになるや否やさやかと里美に捕まって連れてこられたのは、会社のビルに入っているレストランの一つ。夏帆はともかく何故だか愛香まで居て、同期女子が勢ぞろいしていた。

「翠! うちらに何か言う事あるでしょ?!」

 里美の言葉に何も思い当たらない私が、きょとんとしてみんなを見回すと、ドンッと勢い良くさやかがコップを置いた。

「しらばっくれても無駄なんだよ、証拠はばっちりつかんであるんだから」

 本当に、一体何の話なんだろうと首をかしげる私に、ニヤリと笑って里美が言う。

「翠ちゃん、土曜日の夜に電話に出たのはだぁれ?」

 電話? 土曜日の夜? 全く心当たりが無くて首を傾げてしまう。

「電話ってなに?」

「何って。聞いてないの?!」

「聞いてないって何を?」

「えぇー。着信履歴、見てよ」

 出鼻をくじかれたらしく、ちょっとテンションの下がったさやかに言われるまま、私は自分のスマホの着信履歴を開いてそして…思わず呟いてしまった。

「……何これ」

 私のスマホの着信履歴にはずらりと10件以上もさやかと里美からの着信があったから。

「ホントに知らないの?」

 怪訝そうな表情でさやかが私を見るから、首をかしげながら頷いた。こんなに着信があったことを、今の今まで本当に知らずにいた。

 どうして不在着信の通知が消えていたんだろう? そう思いながら、この時間何していたのかを考えながら並んだ着信の時間を見る。

 土曜日の夜9時過ぎ。記憶をたどって、思い出した事実に思わず「あ」と声を漏らしてしまった。

 寝てた。私、この時間、先生の部屋で寝てた。

「この電話…誰か出たの…?」

 さっき電話に出たのは誰とか云々と言っていたのを思い出して、一抹の不安を覚えつつ、おずおずとさやかと里美に視線を向ける。

「出ましたよ。男の人が。あの方はどちら様で?」

 そう言ってくるさやかの表情が、物凄く……拗ねている。あまりの言い難さに視線を逸らすと、愛香が肩を震わせて笑ってて、夏帆が苦笑いしていた。

「か……」

「か?」

「か、彼氏……です。ご、ごめんなさい」

 むぅっと膨れっ面のさやかと、釈然としない様子の里美に、もう一度「ごめんね」と小さく謝る。
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