冷たい雨の降る夜だから
沈黙を破って最初に笑い出したのは、夏帆だった。
「ごめん、笑っちゃった。だって、妹って」
「すっごい言われた。その格好で出かけるのありえないとか。女子力どこに落っことしてきたんだとか。下着すら女子力無くてでガッカリしたとか。そんなでどーやって彼氏落としたんだとか」
それはもう、清々しいほどに思いっきり私の格好を全否定してくれた。
「心配してくれていい妹じゃん」
夏帆はクスクス笑いながら言う。
「それにしたって、もうちょっと言い方があるじゃん……」
「身内だから言えるんだよ」
それは、確かにそうだ。相手が藍だと言われて腹も立つけど、でも許せるというか、憎めない。姉妹ってなんだか不思議だ。
「ね、彼氏どんな人?」
「電話でさやかと喋った通りの人だよ、多分」
「喋った通りって……。うるせぇ、と用ないなら切るぞって言われただけ……」
「大体そんな人だよ」
うん、そんな人。普通に喋ってると毒舌だし、容赦ないし。
「翠、その人と付き合ってほんとに大丈夫?」
そう言ってくるさやかの目が本気で心配してくれているのが判って、
「うん、大丈夫。口悪いけど、ちゃんと優しいから」
「のろけた……翠がのろけた……」
聞くんじゃなかった、と打ちひしがれてるさやかを里美がよしよしと慰めてた。
「ね、仕事なにしてるひと?」
「高校の、先生」
「おお!高校教師!?」
ぱっと食いついてきたのはやっぱりさやか。
「なんか珍しい! 響きがエロい! 私、高校教師と飲んだこと無い!」
エ、エロ? 私の予想の斜め上を行くさやかの発言に、言葉に詰まる。これは絶対に自分の高校の先生だなんて言えない。言わない方が良い。言ったら何言われるかわからない。
「ちょっと翠! 今度高校教師と飲み会!! 翠の彼氏、気になるし!!」
「えぇ、無理だよ。あの人飲み会とかあまり好きじゃなさそうだし」
「そんな事言わずに。なんなら、私が聞いてみるから携帯貸して!」
そういってテーブルの上に置きっぱなしだった私のスマホにさやかが手を伸ばすから、慌ててスマホをバッグの中に仕舞い込んだ。
お昼ご飯を食べ終えてフロアに戻る途中、夏帆が私にだけ聞こえるような小さな声で言った。
「高校の頃の先生だっていつ言うの?」
「いつ言ったらいいと思う?」
夏帆はさぁ?と言う様に首をかしげてクスクス笑う。
「いつ言っても、面白がられると思うけど」
今のさやか達の反応を見ていたら、それは間違いない。でも、いつか言えたらいいと思う。高校二年生の頃の私は、間違いなく先生に会うために学校に行ってた。それは、嘘でもなんでもない。先生と過ごす時間が、あの頃の私には何よりも大切な時間だった。
ゆっくりでいいから、何もかも全てじゃ無くてもいいから、私の大事な恋の話をちゃんとみんなに話せたらいい。みんな大事な…私の友達なんだから。
「ごめん、笑っちゃった。だって、妹って」
「すっごい言われた。その格好で出かけるのありえないとか。女子力どこに落っことしてきたんだとか。下着すら女子力無くてでガッカリしたとか。そんなでどーやって彼氏落としたんだとか」
それはもう、清々しいほどに思いっきり私の格好を全否定してくれた。
「心配してくれていい妹じゃん」
夏帆はクスクス笑いながら言う。
「それにしたって、もうちょっと言い方があるじゃん……」
「身内だから言えるんだよ」
それは、確かにそうだ。相手が藍だと言われて腹も立つけど、でも許せるというか、憎めない。姉妹ってなんだか不思議だ。
「ね、彼氏どんな人?」
「電話でさやかと喋った通りの人だよ、多分」
「喋った通りって……。うるせぇ、と用ないなら切るぞって言われただけ……」
「大体そんな人だよ」
うん、そんな人。普通に喋ってると毒舌だし、容赦ないし。
「翠、その人と付き合ってほんとに大丈夫?」
そう言ってくるさやかの目が本気で心配してくれているのが判って、
「うん、大丈夫。口悪いけど、ちゃんと優しいから」
「のろけた……翠がのろけた……」
聞くんじゃなかった、と打ちひしがれてるさやかを里美がよしよしと慰めてた。
「ね、仕事なにしてるひと?」
「高校の、先生」
「おお!高校教師!?」
ぱっと食いついてきたのはやっぱりさやか。
「なんか珍しい! 響きがエロい! 私、高校教師と飲んだこと無い!」
エ、エロ? 私の予想の斜め上を行くさやかの発言に、言葉に詰まる。これは絶対に自分の高校の先生だなんて言えない。言わない方が良い。言ったら何言われるかわからない。
「ちょっと翠! 今度高校教師と飲み会!! 翠の彼氏、気になるし!!」
「えぇ、無理だよ。あの人飲み会とかあまり好きじゃなさそうだし」
「そんな事言わずに。なんなら、私が聞いてみるから携帯貸して!」
そういってテーブルの上に置きっぱなしだった私のスマホにさやかが手を伸ばすから、慌ててスマホをバッグの中に仕舞い込んだ。
お昼ご飯を食べ終えてフロアに戻る途中、夏帆が私にだけ聞こえるような小さな声で言った。
「高校の頃の先生だっていつ言うの?」
「いつ言ったらいいと思う?」
夏帆はさぁ?と言う様に首をかしげてクスクス笑う。
「いつ言っても、面白がられると思うけど」
今のさやか達の反応を見ていたら、それは間違いない。でも、いつか言えたらいいと思う。高校二年生の頃の私は、間違いなく先生に会うために学校に行ってた。それは、嘘でもなんでもない。先生と過ごす時間が、あの頃の私には何よりも大切な時間だった。
ゆっくりでいいから、何もかも全てじゃ無くてもいいから、私の大事な恋の話をちゃんとみんなに話せたらいい。みんな大事な…私の友達なんだから。