冷たい雨の降る夜だから
「翠、今の、なに?」

「門限って、どーゆー関係?」

 2人の問いにカァッと頬が熱くなるのがわかった。一瞬でも勝った気分になったのが余計に恥ずかしい。

「あ、後で話すっ」

 恥ずかしくてたまらなくて、美咲と圭ちゃんを置き去りにして職員玄関を駆け出した。校門の近く、つぼみが綻び始めてる大きな桜の木の前で、高校の校舎を振り返った

「どしたの?翠」

 圭ちゃんの声と一緒にほんのり温かい春の風が吹き抜けて、髪を揺らす。

「なんかね、高校の卒業式の時より、色々すっきりしたなーと思って」

 いろんなものを不完全燃焼で抱えていた高校の卒業式の日よりも、ずっとずっと清清しい気持ちだった。

「例えば新島先生の事とか?」

 詳しく聞くからね? と含んだ瞳で圭ちゃん。

「それは、まぁ、ええと、後ほど……」

 先生、あんな言い方しなくたって良いのに。あんな言い方されたら、否応なく話さなきゃいけない。そう思って気がついた。

 隠さずに付き合ってるって言って良いよって先生は言ってくれたんだ。それをあんな言い方してくるあたりが、いい性格してるというか、性格悪いというか、すごく先生っぽい。そう思うと笑えてしまう。先生はちょっと意地悪で、やっぱり、ちゃんと優しい。

「よかった」

 そう言って相変わらずの綺麗な顔で微笑んだのは美咲。

「翠、卒業式の後泣いてたの、辛そうだったから。大学行ってからなんだか雰囲気変わっちゃって、あんまり会わなくなっちゃったし」

 美咲の言葉にちょっと感傷的になっていると、「元気そうでめちゃくちゃ安心したんだからね!」と圭ちゃんにわしゃわしゃわしゃっと髪を撫で回される。

 本当に不思議。同じ風景で、同じメンバーなのに、私の目の前に広がる世界は、高校の卒業式の時に見た世界とは違うものになっていた。

 大丈夫、先生だけじゃない。美咲と圭ちゃんも、さやか達も、藍も…みんな居てくれる。私の周りにはこんなに大切な人たちが居てくれている。それにちゃんと気づいたから。だから、もう大丈夫。今すぐは無理でも、いつか冷たい雨の降る夜の記憶も、塗り替えられたらいい。

 先に歩き出してた美咲と圭ちゃんの間に割り込んで二人の腕を抱きしめた。

「2人とも大好き!」

 優しく吹き抜ける春風と一緒に、私も歩き出した。

 -fin-
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