冷たい雨の降る夜だから
部活が終わる時間に大輔からメールをもらって、翠は不満タラタラで帰り支度を始めた。
「もうくんなよ。明日は入れてやらないからな」
「せんせの意地悪」
翠は口を尖らせて新島を睨んだ。
でも新島はきっと口ではそういっても明日も来たら入れてくれる。そう思うのは眼鏡の奥の新島の目が少し優しいから。
「せんせ」
「ん?」
「あたし、せんせのこと好きだよ」
「俺ロリコン趣味無いわ」
全く動じた様子もなくあっさりと言い返されて翠は口を尖らせた。
「そういう意味じゃなくてぇー!」
「ほら、仕事の邪魔だからさっさと帰れ」
問題集を見てばかりで全然翠の方を見ずに言う新島に翠は頬を膨らませた。いつもは邪魔とか言わないくせに。大輔と一緒に帰るようになってからの新島は、とても冷たい。前はこんなに帰れとか邪魔とか言わなかったのに。
「もうっ 明日も来るからね!!」
翠は不機嫌にそういって物理実験準備室のドアを開けた。出て行く前にちらりと振り返ると、新島は翠のほうを見ずに手だけ振ってくれていた。
一度教室の方に階段を上って、翠はぐるっと一度北校舎から南校舎に廻って改めて昇降口に向かった。物理実験室があるのは北校舎。バドミントン部が部活をしている小体育館があるのは南校舎。
大輔と帰るようになってから部活帰りだと思わせるために、わざわざ南校舎側から昇降口に向かうのが習慣になっていた。
「翠」
昇降口前で手を振ってくれた大輔の元に歩み寄ると、「帰ろうか」とはにかむように笑って手を握られてゾワッと肌が粟立った。
ヤバい。ホントに……ホントに無理!!!!
ゴツゴツとした男らしい指が尚更翠の恐怖心を掻き立てた。だけど、そんなの口に出せない。言った後の大輔の反応が怖い。怖くて怖くて溜まらない。
翠はその恐怖心が顔に出ないように必死に顔に笑顔を作ったがその笑顔はどこか引きつっていた。
「そんな、緊張しなくても」
翠の引きつった笑顔を緊張と取ったのか、大輔は翠を見て表情を崩す。
「なんかさ、翠どっか余所余所しいっていうか……
そんな感じがしてたから、無理って言われるかなーって、俺勝手に思ってて」
ぎゅっと繋いでいた手に力が篭るのを感じて、翠は背中を駆け抜けた悪寒に身体を震わせた。
「だから、翠にOKもらえてマジで嬉しい」
「……」
翠は何も答えられなくて、大輔から目をそらした。
「ご、ごめん。こんなん言われても困るよね」
あはは、と笑って大輔は翠の手の存在を確かめるように翠の手を握ってから、翠の様子を伺うように切り出した。
「翠、今日部活休みだった?」
「な……なんで?」
もしかして、部活辞めたことバレたのかと翠はドキドキしながら問い返した。
「あ、いや。部活中に翠に似た子見たから。遠目だったし制服着てたから、人違いかもなんだけど」
「そ……そっか。人違い……じゃないかな」
あたし、今日部活行ったし……と余所余所しく目をそらしながら小さな声で答えるのが、今の翠に出来る精一杯だった。
「もうくんなよ。明日は入れてやらないからな」
「せんせの意地悪」
翠は口を尖らせて新島を睨んだ。
でも新島はきっと口ではそういっても明日も来たら入れてくれる。そう思うのは眼鏡の奥の新島の目が少し優しいから。
「せんせ」
「ん?」
「あたし、せんせのこと好きだよ」
「俺ロリコン趣味無いわ」
全く動じた様子もなくあっさりと言い返されて翠は口を尖らせた。
「そういう意味じゃなくてぇー!」
「ほら、仕事の邪魔だからさっさと帰れ」
問題集を見てばかりで全然翠の方を見ずに言う新島に翠は頬を膨らませた。いつもは邪魔とか言わないくせに。大輔と一緒に帰るようになってからの新島は、とても冷たい。前はこんなに帰れとか邪魔とか言わなかったのに。
「もうっ 明日も来るからね!!」
翠は不機嫌にそういって物理実験準備室のドアを開けた。出て行く前にちらりと振り返ると、新島は翠のほうを見ずに手だけ振ってくれていた。
一度教室の方に階段を上って、翠はぐるっと一度北校舎から南校舎に廻って改めて昇降口に向かった。物理実験室があるのは北校舎。バドミントン部が部活をしている小体育館があるのは南校舎。
大輔と帰るようになってから部活帰りだと思わせるために、わざわざ南校舎側から昇降口に向かうのが習慣になっていた。
「翠」
昇降口前で手を振ってくれた大輔の元に歩み寄ると、「帰ろうか」とはにかむように笑って手を握られてゾワッと肌が粟立った。
ヤバい。ホントに……ホントに無理!!!!
ゴツゴツとした男らしい指が尚更翠の恐怖心を掻き立てた。だけど、そんなの口に出せない。言った後の大輔の反応が怖い。怖くて怖くて溜まらない。
翠はその恐怖心が顔に出ないように必死に顔に笑顔を作ったがその笑顔はどこか引きつっていた。
「そんな、緊張しなくても」
翠の引きつった笑顔を緊張と取ったのか、大輔は翠を見て表情を崩す。
「なんかさ、翠どっか余所余所しいっていうか……
そんな感じがしてたから、無理って言われるかなーって、俺勝手に思ってて」
ぎゅっと繋いでいた手に力が篭るのを感じて、翠は背中を駆け抜けた悪寒に身体を震わせた。
「だから、翠にOKもらえてマジで嬉しい」
「……」
翠は何も答えられなくて、大輔から目をそらした。
「ご、ごめん。こんなん言われても困るよね」
あはは、と笑って大輔は翠の手の存在を確かめるように翠の手を握ってから、翠の様子を伺うように切り出した。
「翠、今日部活休みだった?」
「な……なんで?」
もしかして、部活辞めたことバレたのかと翠はドキドキしながら問い返した。
「あ、いや。部活中に翠に似た子見たから。遠目だったし制服着てたから、人違いかもなんだけど」
「そ……そっか。人違い……じゃないかな」
あたし、今日部活行ったし……と余所余所しく目をそらしながら小さな声で答えるのが、今の翠に出来る精一杯だった。