冷たい雨の降る夜だから
 北校舎の1階には物理実験室、化学実験室、生物実験室、地学室と4つある理系教室が集まっていて、物理実験室は化学実験室と向かい合うように奥にある。校舎の北側に面して一日中日陰になるこの部屋は、真夏でも他の部屋ほど気温が上がらない。

「せんせー?居る?」

 ちょっとひんやりとした空気の廊下を駆け抜けて、翠は物理実験室の奥にある物理実験準備室のドアを開けた。だけど、そこには新島の姿は無い。

 やっぱり居ない…かぁ…。

 予想はしていたけれど、翠はため息をついてポケットから折りたたんだ紙を出した。それは、新島に会ったら渡そうと思って準備していた物だった。

 4月から新島は3年7組の担任になった。だからHR直後の時間帯はここに居ることが殆どない。1年生の頃、といっても知り合ったのが2月の末だから、ここに来るようになったのは、3月だけど。その頃は会いにきたらほぼいつでも会えたのを思い出す。

 少し待って会えるなら待っていたいけれど、それすらよく判らない。一人なら新島が来るまで待っていられるのに。

 これ、置いていって大丈夫かな……

 翠は手に持った紙を見つめて少し考えて、諦めて新島が使う実験台の上にそれだけおいて物理実験準備室を後にした。
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