冷たい雨の降る夜だから
「触らないで!!」

 手が肩に触れるなり、ビクッと肩を震わせて叫んだ翠に大輔は驚いた様子で翠の肩から手を離した。

「そんな叫ぶような…」

 叫んだりそんな怖がられたりするような事していない。大輔の言いたい事はわかる、その通りだ。普通なら、普通の女の子なら付き合っている人に触られただけでこんなに取り乱したりしない。

 でも、今の翠は違った。

 ヤダ、ヤダ、ヤダ、触らないで。

 頭の中を締めるのはその感情だけ。

「翠」

 大輔に手を握られて、翠は身震いした。

「…なして…お願い…放して」

 だけど、大輔の手は緩まなかった。

「…翠、去年の冬に彼氏居たの美咲から聞いてた。別れたころから様子がちょっと変だってのも聞いた」

 なんで? あたし、美咲に何も言ってない。美咲、あたしが先輩に無理やりされた事知ってた…? やだ。意味わかんない。

 翠の頭はもはやパニックに陥っていた。

「翠、俺の事…怖がらないで欲しい」

 大輔の手は、翠の手をしっかり握っていて、もう一方の手が翠の腕を掴んでいた。

 話したくなんて無い、思い出したくなんて無い。翠は無意識に首を横に振っていた。

 脚がガタガタ震えて、立っているのも辛い。腕を掴んでいた大輔の手に強く引かれて大輔に抱き締められた。

「俺のこと怖がるな」

 腰に添えられた手に力が篭って、自然と大輔の腰と翠の腰が密着する。
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