冷たい雨の降る夜だから


 夕暮れの学校の廊下を駆け抜ける。

 逃げなきゃ。脳裏に浮かぶのは、伸びてくる大きな手。すぐ背後まで迫っているような恐怖感に襲われて、必死に走るのに足が空を切ってどこにも進めない。逃げる私を、嘲笑う声が耳元で聞こえる気がした。

 はっと目を覚ました私の耳に、パタパタと雨粒が屋根に当たる音が響く。電気が付いたままの部屋がうたた寝をしたのだと教えてくれていて、スマホの時計を見ると多分本当に10分かその位しか寝ていないのだと判る。それなのに、じっとりとかいた汗が嫌な夢の余韻を余計に強くしていた。

 雨の日は、いつも同じ夢を見る。

 『何か』から逃げる夢。必死に逃げて逃げて…目を覚ます。

 机の上に開きっぱなしになっていた高校の卒業アルバムの中で、高校3年生の私が笑っていた。

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