冷たい雨の降る夜だから
 その一件以来、私の男嫌いは同期の間には知れ渡って、男子はあまり踏み込んでこなくなったし、女子も男の人が絡むことに関しては気を使ってくれている。

「悪い奴じゃないんだけどね……。久しぶりにこっち戻ってきたからみんなと遊びたいみたいだし」

「うん……それは、判ってるんだけど」

 判っているけど、出来れば距離を置きたい。
 
「何かあったら言ってね。それより、スカート珍しいね」

「あぁ、うん…変じゃない?」

 夏帆は私を見て小さく頷いてふっと笑う。

「可愛いよ」

 その言葉に安心して、息をついた。別に里美の感性を疑っているというわけではないのだけど、里美に言われる『可愛い』と夏帆に言われる『可愛い』は何となく違う。里美も夏帆も可愛いと言ってくれるなら、大丈夫なんだろうとちょっと安心した。

 会いたい気持ちを抑えられなくて、先生の気が変わるのが怖くて、明日会うか?と言ってくれたときに即答したけれど、今朝、服を選びながら激しく後悔したのだ。同い年の女の子たちが合コンやデートのときに着て行くような、可愛らしい服なんて一着も持っていなかったから。

 とりあえず、持ってる中で一番可愛いかな?って感じがするのを選んできたつもりだけど、正直スカートなんてめったに履かないから全然落ち着かない。このスカートも、去年内定者の懇親会のときに『スーツじゃなくても良いけど準正装程度に』というお達しがあって渋々買ったもの。それ以来出番がなかった……というと不憫なスカートだけど、気に入っていないワケじゃない。

 本当は可愛い恰好自体は好き。妹がお目当ての付録を外した後に投げ出してるファッション雑誌見るのも大好き。同期の女の子たちの事も、みんな可愛くていいなとは……思ってる。

 だけど、その格好で自分がするかっていうとまた別の問題で。可愛くして出掛けられるかというと、それは更に次元の違う問題だった。

「今日、何かあるの?」

「え?」

「だってそんなに服気にしてるトコ、見るの初めて」

「……うん」

 小さく頷いた私に、夏帆が優しく笑う。

「そっか。後で聞かせて」

遅刻しちゃうから行こうと夏帆に促されてロッカーを出た。
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