冷たい雨の降る夜だから
あの日、先生に彼女が居るんだと判ったら、先生が男の人なんだと変に意識してしまって。男の人だと意識したら、先生の事が好きという漠然とした気持ちと生々しい記憶が重なって……それで、あんな夢を見たんだと思う。
「今でも、怖いか?」
私はぶんぶんと首を横に振った。先生の手が、涙が止まらなくなってた私の頭を抱き寄せてくれる。
「ごめんな」
耳元で聞こえた先生の優しい声に、心臓がドキンと跳ねる。
「あの時、散々悩んで、踏ん切りがつかなかった。あれ以上お前と二人で過ごして、教師と生徒で居られる自信がなかった。かといって、俺ならお前の事何とかしてやれるなんて調子いいことも、思えなかった。お前が来なくなったのは、まぁ寂しかったけど、どこかで丁度よかったと思ったのも嘘じゃない。俺のとこに来なくてもやっていけるなら、それに越したことないって…思おうとしたんだよ」
先生の大きな手が、髪を撫でてくれて、吐息が耳にかかるくらい近くで先生の声がした。
「夜に雨降ってると、どうしてもお前の事思い出して駄目だった。独りで泣いてないか、ずっと心配だった」
じゃぁ、私が先生の事思い出してた雨の日は、先生も私のこと思い出してくれてたの? 一昨日電話をくれたのは、雨が降っていたから?
「お前、こんなにキャラ変わるほど無理するなよ。なんかあったら連絡しろって言っただろ?」
「……て……だって」
ずっと泣きっぱなしで、言葉が上手く出てこない。
「……が……ばったんだも……ん」
残りの言葉は、全部嗚咽に飲み込まれた。
頑張ったの。
この5年間『何も』無い様に必死で頑張ったの。大学で会う男の人はとにかく怖くて。全てを打ち明けられる様な、信頼できる友達なんて出来なかった。美咲と圭ちゃんにも、道又先輩の事を話せないままどんどん疎遠になった。誰にも助けてなんていえなかった。
あの頃どうして先生に会いに行かなかったのか、どれだけ後悔したかわからない。だけど、あの頃の私は……怖くて会いにいけなかった。もしも先生と会って、他のの人と同じように『怖い』と思ったらどうしよう、そう思うと足がすくんで会いにいけなかった。
先生に会いたいと素直に思えるようになったのは、高校を卒業して2年も経ってからだった。それから何度も、電話を掛けようとしたけれど…掛けられなかった。あの頃のことを謝って、言い訳をしたって何も意味がないと言うことだけは判っていたから。
2年も経ったら先生ももう私のことなんて忘れてるんじゃないかとか、私が知っている番号もアドレスも繋がらないかもしれないとか、私の知らない先生の時間を考えたら、電話をかけるのは怖かった。私の好きの気持ちの行き場がなくなってしまうのが怖かった。行き場を失くしてしまうなら高校の頃の優しい先生のまま、記憶の中の先生に側に居てもらったほうがいいんじゃないかって。
そんな事を思ってしまうとますます電話なんて掛けられなくなって、時間ばかりが過ぎていった。先生を思い出すたびに沸き起こる会いたい気持ちと恋しさは、いつも不安と臆病な心に押しつぶされた。
一度決壊した涙は止め処なく溢れてしまって、頬を伝って落ちては抱きしめてくれている先生のスーツとワイシャツに染み込んでいく。呼吸すらままならない程に泣きじゃくる私の背中を、先生の手が優しく撫でてくれていた。
先生は、私が泣いた時はもいつも急かしたりしないで泣き止むまで待っててくれる。
どんなに、時間がかかっても。
「今でも、怖いか?」
私はぶんぶんと首を横に振った。先生の手が、涙が止まらなくなってた私の頭を抱き寄せてくれる。
「ごめんな」
耳元で聞こえた先生の優しい声に、心臓がドキンと跳ねる。
「あの時、散々悩んで、踏ん切りがつかなかった。あれ以上お前と二人で過ごして、教師と生徒で居られる自信がなかった。かといって、俺ならお前の事何とかしてやれるなんて調子いいことも、思えなかった。お前が来なくなったのは、まぁ寂しかったけど、どこかで丁度よかったと思ったのも嘘じゃない。俺のとこに来なくてもやっていけるなら、それに越したことないって…思おうとしたんだよ」
先生の大きな手が、髪を撫でてくれて、吐息が耳にかかるくらい近くで先生の声がした。
「夜に雨降ってると、どうしてもお前の事思い出して駄目だった。独りで泣いてないか、ずっと心配だった」
じゃぁ、私が先生の事思い出してた雨の日は、先生も私のこと思い出してくれてたの? 一昨日電話をくれたのは、雨が降っていたから?
「お前、こんなにキャラ変わるほど無理するなよ。なんかあったら連絡しろって言っただろ?」
「……て……だって」
ずっと泣きっぱなしで、言葉が上手く出てこない。
「……が……ばったんだも……ん」
残りの言葉は、全部嗚咽に飲み込まれた。
頑張ったの。
この5年間『何も』無い様に必死で頑張ったの。大学で会う男の人はとにかく怖くて。全てを打ち明けられる様な、信頼できる友達なんて出来なかった。美咲と圭ちゃんにも、道又先輩の事を話せないままどんどん疎遠になった。誰にも助けてなんていえなかった。
あの頃どうして先生に会いに行かなかったのか、どれだけ後悔したかわからない。だけど、あの頃の私は……怖くて会いにいけなかった。もしも先生と会って、他のの人と同じように『怖い』と思ったらどうしよう、そう思うと足がすくんで会いにいけなかった。
先生に会いたいと素直に思えるようになったのは、高校を卒業して2年も経ってからだった。それから何度も、電話を掛けようとしたけれど…掛けられなかった。あの頃のことを謝って、言い訳をしたって何も意味がないと言うことだけは判っていたから。
2年も経ったら先生ももう私のことなんて忘れてるんじゃないかとか、私が知っている番号もアドレスも繋がらないかもしれないとか、私の知らない先生の時間を考えたら、電話をかけるのは怖かった。私の好きの気持ちの行き場がなくなってしまうのが怖かった。行き場を失くしてしまうなら高校の頃の優しい先生のまま、記憶の中の先生に側に居てもらったほうがいいんじゃないかって。
そんな事を思ってしまうとますます電話なんて掛けられなくなって、時間ばかりが過ぎていった。先生を思い出すたびに沸き起こる会いたい気持ちと恋しさは、いつも不安と臆病な心に押しつぶされた。
一度決壊した涙は止め処なく溢れてしまって、頬を伝って落ちては抱きしめてくれている先生のスーツとワイシャツに染み込んでいく。呼吸すらままならない程に泣きじゃくる私の背中を、先生の手が優しく撫でてくれていた。
先生は、私が泣いた時はもいつも急かしたりしないで泣き止むまで待っててくれる。
どんなに、時間がかかっても。