冷たい雨の降る夜だから
繋がる気持ち
 保冷剤で冷やしてから寝たけれど、夜に散々泣いたから朝に起きた時にはもちろん目は腫れていて。結局、泣き腫らした顔で出勤した私は、就業後夏帆に捕まった。さやかや里見の心配そうな視線も感じてはいたのだけど、多分夏帆に一任されたのだろう。

 夏帆に聞かれるままに昨夜の事を話すと、夏帆はほっとした顔で息をついた。

「じゃぁ、泣かされたんじゃないのね?」

「うん、むしろ……」

「むしろ?」

 むしろ、抱き締めてもらったのは、どう受け止めたらいいんだろう。先生は、私がどんなに泣いていても抱きしめてくれたことなんて無かった。頭は撫でてくれていたけれど、それ以外に先生が私に触れたのは、一度だけ涙を拭ってくれた時だけだ。

「そりゃ……まぁ、泣いてる女の子は抱きしめたくなるもんだよ。ねぇ、翠とその人ってさ、元々はどういう知り合いなの?」

 私は夏帆に会っている相手が、高校の頃の先生だと言うことを言っていなかった。なんとなく、先生の事をずっと誰にも話さずに居たから、教師と元生徒というこの関係が、他の人にどう受け止められるのか不安になってしまって、口に出せずにいた。

「高1の頃に付き合ってた人と別れたときに、色々聞いてもらってた人」

 私が道又先輩と別れた本当の理由を知っているのは先生だけ。手紙をくれた先輩の事も、渡辺君の事も、知っているのは先生だけ。

「その頃はさ、向こうから何か言われたりしなかったの?」

「なんにも言われたこと無かったんだけど……」

 あの頃、先生は私に何も言わなかった。先生は保健室にすら行けない私に安心できる場所をくれた。あの頃の先生と私の関係は、男女とか、好きとか嫌いとかではなく、大人として子供だった私に安全な場所をくれていたのだと思う。私が勝手に恋愛感情を持ち出して、壊してしまったのだと思っていた。だけど、昨日先生に言われたことは、聞き返すことはできなかったけれど、聞き流すことも出来ていなかった。

「昨夜何か言われたの?」

「えっと……散々悩んで踏ん切り、つかなかったって」

「悩んでって、好きか嫌いか悩んだってこと?」

「そうかもしれないけど、でも……」
< 74 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop