冷たい雨の降る夜だから


 冷たい風が頬をなでる。緊張した心を沈めるように深呼吸して、私は発信ボタンを押した。耳に響くのは、無機質な呼び出し音。

 仕事中かな? 電話出てくれるかな? やっぱり迷惑かな…?

 そんな事が頭を巡る中、呼び出し音が止まった。

「北川?」

 聞こえてきた先生の声は、少し固い声音。やっぱりまだ仕事していたかな、と少しだけ気が引けた。

「せんせ、まだ仕事してた?」

「ん、まだ学校。どうした? お前、今日は用事あるんじゃなかったのか?」

「そう、だったんだけど。……ドタキャンしちゃった」

 予想通りに菊池君はさやか達に声をかけていて、二人からは飲み会に行くよと声をかけられていた。だけど、夏帆に「菊池のペースに巻き込まれてる場合なの?」と一蹴された。

「大丈夫なのか?」

「うん。もともと、行きたく……無かったし」

「そっか」

途切れてしまった会話と、訪れた沈黙にずっとドキドキとなっている心臓が更に加速する気がした。

「先生」

「ん?」

「あのね、私、先生に聞きたいことあって」

「なに?」

「それで……その、会い……たいんだけど」

 会いたい、その言葉を先生に言うのは……初めてだった。昔は会いたいときに、会いにいけたから。待ってたら、会えたから。でも、今は違う。言わなきゃ、ちゃんと先生に時間を作ってもらわないと会えない。

「お前、今どこ?」

「…学校の近くの、駅」

 一瞬間があって、先生が小さく笑った。

「キリがいいとこまで片付けたら迎え行く。少し待ってな」

「うん」
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