冷たい雨の降る夜だから


 「先輩のこと、ずっと好きでした」

 そう告げたのは、11月の下旬だった。冬休みが明けたら、3年生は自由登校になってしまう。答えがもらえなくてもいいから、好きだと言う気持ちだけは伝えたくて告白をした。

 好きな人、だった。

 でも、もう過去の事になってしまった。付き合っていたのは3ヵ月に足らないほど。そんな短期間なのに、好きになったことを後悔するほどに、恐怖の対象になってしまった。どれだけ泣いたか判らないのに、それなのにまだ涙が出てくる。涙はどこから出てくるのか知りたくなった。もう涙が枯れる程泣いたと思っていたのに、いつまでもいつまでも、枯れてくれない。

 不意にポケットの中で震えた携帯電話に翠はびくっと身体を竦ませた。携帯をポケットに入れっぱなしにしていたこと自体、すっかり忘れていた。ポケットの中から引っ張り出した携帯を恐る恐る開く。

 メールが沢山きていたとしても怖い、何一つ届いていないのも怖い。そんな心境だった。

 届いていたのはメールが2件。今来たメールは、親友の美咲から。

 『明日、暇だったら買い物しよう~♪』

 もう一通は差出人を見ただけで、開く前から胸が刺されたように痛い。ドキドキを通り越して、心臓が脈打つたびにズキンズキンと痛む気がした。震える手で開いたそれは、とても簡素なメールだった。

 『お前にもう、用無いから』

 あまりの虚しさに言葉もでなかった。ただ胸の中に広がっていく虚無感が全てを支配していく。ついさっきまで耳の奥で鳴り響いていた心臓の音すら聞こえない。

 どうしてこんな所で泣いていたのか、今しがたまで胸が痛かったのかすら判らなくなるほどに、何もかもが虚しい。自分がここに居ることさえ、何一つ意味の無いことのように感じられた。

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