冷たい雨の降る夜だから
「っていうかお姉こんなとこでなにしてんの?」

「何って、ちょっと話をしたくて」

 私の返事に藍がなんというか、物凄い顔をした。

「そんな23にもなって中学生みたいなことしないでよー」

 そんなダメ?と見ると藍は先生を見て続けた。

「こんな地味な公園でデートとか許されるの高校生が限界ですよね?こんなトコでしゃべるより連れて帰りたいですよね?」

 そんなことで同意を求められても先生困ると思うんだけど、という私を他所に藍は先生を見上げて、ね? と小首をかしげる。当たり前だけど妹の家では見せない顔に、私は少し圧倒されていた。先生は面白そうに藍を見て、私に言った。

「翠、明日も仕事だろ? 今日は帰れよ」

「……うん」

 藍もいるし、このまま帰ろうかと渋々ながらも頷いた私の言葉を、またしても藍が遮った。

「えー? 帰るの? 仕事なんてどこからでもいけるんだから泊まりに行けばいいじゃん」

「行けないよ。着替えもないし」

 なによりも、私はまだ先生のところに泊まったことすらない。藍は、しょっちゅう「友達とオールしちゃった~」とか「終電逃したから彼氏のトコに泊まってくね」とか、それはもう軽やかに、親への伝言を私に託してくれる。でも、私はそうじゃない。先生だって、私のこといつも家に送り返してくれる。だけど、私の返事に藍が本日2回目の物凄い顔をした。

「えええええ。着替えって……。着替えの一週間分くらい置いとけばいいじゃん」

「藍、カケル君のトコにそんなに置いてるの?」

 頭にぽんと浮かんできたのは、暫く前に藍が家に連れてきた茶髪の彼氏。大学4年なのに茶髪で就職大丈夫なのかな? と思ったのを思い出す。

「カケルは別れたよー」

 カケル『は』ってことは今は別の彼氏なんだろうか。それはさておき一週間分って、それは置き過ぎだと思う。

「あたしの話はいーから」

 藍は私と先生を見比べた後にニッと笑った。

「いいよ。今日は特別に服もって来てあげる」

 え? と思った私を無視して、藍は座っていた公園の入り口の車止めからぴょこんと立ち上がった。
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