無愛想教師の恋愛事情
「今日はありがとうございました。」

私は先生を見送るために、アパートの外へ出た。
間近に立つ先生は、少し見上げなくてはならない程、私との高低差があった。ポロシャツにデニムというラフな服装なのに、やっぱりモデルさんのように格好良い。
不思議だわ。

「こちらこそ、夕食までご馳走になって申し訳ない。」

「いえ、逆に引き留めてしまって…早く帰りたかったらごめんなさい。」

「いや、有り難かったです。夕飯はコンビニ弁当がほとんどですから。久しぶりに家族団欒を味わいました。いいご姉弟ですね。」

「はい。哲は色々我慢しても文句も言わずに私達を助けてくれてるし、唯も明るくて優しい子なので、居てくれるだけで笑いが絶えません。」

先生は穏やかな顔で、私の話に相槌をうつ。

「先生。うちに来て教えること、ご負担になるんじゃありませんか?」

「理花さんは、俺が唯さんに個人的に指導すること、反対ですか?」

質問を返される。

「いえ、反対だなんて。凄く嬉しいし心強いです。」

「じゃあ大丈夫。理花さんが嬉しく思ってくれるなら俺も嬉しいです。」

「先生…」

思わず、一之瀬先生の端正な顔をじっと見つめる。
私の視線が痛かったのか、先生の頬が少し赤らんだ。

「こほん……あ、もうこの辺で失礼します。では、おやすみなさい。」

「おやすみなさい。お気をつけて。」

先生は挨拶をすると、振り返ることなく駅に続く道を歩いて行った。

* * *


アパートに戻ると、唯が一人騒いでいた。

「いやー、一之瀬先生は神だね。優しくて教え方上手いし。さすが学校の先生。いや、私の担任…」

「今まで鬼だ悪魔だと、ボロくそに扱き下ろしてたのは誰だよ。」

「まじで学校での先生は酷いんだよ。血も涙もないアンドロイドなんだよ…」

「唯、あんな優しくて素敵な先生に対して、なんて酷いこと言うの…」

「素敵…?」
哲が小声で呟く。

「えへっ。だけど…なんで学校での先生はあんな無愛想で冷たいんだろ。今日みたいな先生だったら人気でるのに。絶対モテモテだよ。」

なにか理由があるんじゃないの?と、適当に話を流し、洗い物を始める
確かに、なんで学校での先生は無愛想なのかしら。本当は優しいし、はにかんだ笑顔は凄く素敵なのに…
考えていたら急に顔が熱くなり、振り払うように頭を左右に振る。

その様子を、怪訝な表情で哲が眺めていたのには気付かなかった。
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