無愛想教師の恋愛事情
弟の思い
7年前に母さんが亡くなった。俺はまだ小学五年生だった。悲しくて泣きたくてたまらなかった。

でも4つ下の妹が泣きじゃくるのを見て、自分は泣くに泣けなかった。そんな気持ちを隠して、妹をよく慰めていた記憶がある。妹の記憶では、意地悪を言われた…にすり代わっているのが納得いかないが。

そんな俺の気持ちに、昔から気づいてくれてたのが姉ちゃんだった。姉ちゃんだって悲しかったはずなのに。
いつも笑顔で、母さんが入院してからずっと家の事をやってくれていた。だから母さんが亡くなっても、悲しい…以外は、俺達は何一つ困らなかったんだ。

母さんの葬式が終わって、俺がぼんやりしていたら、急に後ろから姉ちゃんが抱きしめてきたことがある。

「なんだよ、何すんだよ!?」
驚いて、離れようとする。

「哲。哲だって泣いていいんだよ。
私だって泣きたい。でも…母さんの分まで頑張るから。みんなで頑張ろう?
母さんが天国で心配しないように…」

そう言って、黙って抱きしめ続ける姉ちゃんを、俺は振り払うことが出来なかったんだ。

その日から俺は、家族の為でもあるし、一番は姉ちゃんの為に、色んな事を一生懸命頑張るんだ…そう心に誓った。

父さんが亡くなって、姉ちゃんは進学を諦めて、俺達の為に働き出した。どうやっても俺や妹は姉ちゃんに負担をかけてしまう。

だから、俺は自分が出来る事は何でもやる。料理に洗濯、掃除、買い物。俺がやる方が早いし完璧だが、唯にもなるべくやらせている。何にも出来ない女は最悪だからな。

そんな訳で、俺と妹は姉ちゃんに頭が上がらない。心の中だけで言うが、俺は姉ちゃんが大好きだ。美人で優しいうちの姉ちゃんは世界一だと思う。シスコン上等。


「姉ちゃん。最近は変な客いないの?」

俺は姉ちゃんが心配でならない。

「大丈夫。なるべく男性客は当たらないようにしてもらってるからね。」

「それがいいよ。世の中変態ばっかだからなぁ。」

姉ちゃんはクスクス笑っているが笑い事ではない。
実際、姉ちゃんを指名する常連客が、姉ちゃんに恋愛感情を抱き、付きまとわれて大変だった過去がある。

それが俺のシスコン度を、輪を掛けて強固にしたのは言うまでもない。


そして最近。ある奇妙な現象が起きている。

妹の担任だという、なんだか教師にしてはやたら色男な奴が、妹の家庭教師という名目で我が家を出入りするようになった。
全て出来の悪い妹のせいだけど…そうとばかりも言い切れない。

一之瀬先生は絶対姉ちゃんを狙っていると俺は確信している。でなきゃ、こんな公私混同普通はやらない。姉ちゃんだって、先生を嫌いじゃないだろう。むしろ…

なんだかムカムカする。馬鹿妹め。あいつが勉強さえサボらなければ。俺の教えで満足していれば…

ふと目に入った、足元に落ちる唯の答案用紙。拾い上げれば、悪い点数が余計に俺の神経を逆撫でする。
くしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に投げ入れた。

「あれー、数学のテストがない~。今日先生に教わるのに~。」

知るもんか。
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