無愛想教師の恋愛事情
守りたいもの
唯は今のところ、真面目に登校して補習を受けている。
個人指導の宿題も、頑張ってクリアしているようだ。
一之瀬先生は、やっぱり学校では相変わらず無表情で厳しい先生らしく、唯はそのギャップがツボだと騒いでいた。
一之瀬先生とのことは友達には内緒だから、家で私や哲にしか話せないので、相当溜まっているのだろう。
「哲、今日は何か予定あるの?」
「んー、特に。あ、今度の土曜は友達と大学下見に行く予定。」
「そう。わかった。今日は私お休みだから、好きに出かけて大丈夫よ。たまには息抜きしてきたら?」
「う~ん…。姉ちゃんは?」
「私?私は掃除したり布団干したり、今日は先生も来るし、家の事で忙しい。」
「姉ちゃんこそ、息抜き必要じゃないの?」
「…。」
息抜き…といってもなあ。無駄遣いしたくないからショッピングはなるべく行かないようにしている。
趣味も読書くらいだが、それすら儘ならない。
高校時代の友人達は皆大学生で、そもそも自由な時間が合わないから、自然と付き合いがなくなってしまっていた。
たまに親友の有紀ちゃんが、合コンに誘ってくれたりするが、なんとなく気が乗らない。そんなことに使うお金があったら、哲や唯の為に使いたい。
私から見た友人達は、自由な学生でキラキラ輝いて見える。私とは違うんだと、どうしても思ってしまう。
そんな訳で、休日はいつも溜まった家事をして終わってしまうのだ。
「私は家の事するのが好きなの。哲は若いんだから、勉強も大事だけど、たまには遊んできたら?あ、お小遣い足りない?」
「いや、いい。受験生が遊ぶはないでしょ。」
哲は誰に似たんだろう。唯と兄妹とは思えないわぁ。
私の弟は本当に偉いなあ…と感心していると。
「姉ちゃんって、好きな人とかいるの?」
唐突な質問。私の好きな人?
「そんな人いないよ。わかるでしょ?そういう対象になる男の人、まず周りにいないから。」
と、軽く流す回答をしたものの、
(一人だけ…いると言えばいるかも…)と思った。
「一之瀬先生は?」
「何言ってるの。先生に対して失礼でしょ。余計なお世話。哲こそ、彼女作ればいいでしょう?」
冷静を装うも、焦っているの気づかれたかな…。
優しくて格好いい先生を好きにならない理由はない。
でも。
私には恋愛とかしてる余裕は微塵もない。
第一、一之瀬先生に私では駄目だ。
一之瀬先生にお似合いの人。多分…、大企業のOLさんとか、同じ教師とか、家柄も社会的地位もある人。
高卒で、家族の為に働いている、自分のような人間ではないのだ。
* * *