無愛想教師の恋愛事情
給料日後のせいか、いつもより客足が多い気がする。予約客も何人か入っている。
夏場でも冷房のせいか色々な不調を訴える女性のお客様は多い。

今、横たわっている若い女性も、肩こりや冷えに困っているとのこと。
仕事中は施術に集中しなくてはならない。なのに、ふと不安が頭を過る。

今朝出掛け間際、ポストに手を入れると1枚の郵便物が届いていた。
私宛ての封書だった。差出人は聞いたことあるようなないような男性の名前。岡崎拓也。誰だろう?

とりあえず、岡崎という人からの手紙は鞄に入れて家を出たのだ。

休憩時間に鞄から手紙を取り出す。

同級生?何かの案内かな?なんだろう…
中を開封すると、コピー用紙に手書きで書かれていた。

『 大好きな理花へ。

僕は ずっと 理花だけを 想ってきた。
愛してるよ。

なのに、君は 近頃 誰と会ってるの?

理花のまわりに 変な男がうろつくのは
心配でたまらない。

僕が理花を 守ってあげる。

きっと 必ず 岡崎 拓也 』


なにこれ…。

想ってるって言われても、私は顔すら浮かばない。
会いにくる?どこに…

手紙に住所は書かれているが、切手が貼られていない。
直接ポストに入れたの?

途端に寒気がした。気持ち悪い。
急いで手紙を鞄にしまう。


まだ休憩時間がある。私は高校時代の親友の有紀ちゃんにラインした。岡崎拓也という人物を知らないかと。
数秒後にラインが返ってきた。多分、クラスは違うが高校の同級生ではないか?との返事。

仕事が終わり、更衣室で着替えていると田中さんが入ってきた。

「理花ちゃん、お疲れ。気をつけて帰りなね…って、なんだか暗い顔だけど、調子悪いの?」

言うか秘密にするか迷ったが、迷惑をかける恐れがあるので、田中さんには手紙の件を話した。

「これは…ヤバいやつでしょ。警察に届けなさいよ。何かあってからでは遅いし。
悪いけど、これは店長にも伝える。おかしな客に注意するよう徹底しないと。」

「すみません。」

「理花ちゃんが謝ることじゃないよ。本当に帰り道気をつけてね。一人で帰すの心配だわ…」

田中さんは、私より三つ上しか歳は違わないが、まる
でお母さんみたいに心配してくれる。

「弟が夏休みだから、駅まで迎えに来てもらいます。」

「それがいいよ。用心してね。」

手紙が入っていただけで、他に被害はないので、警察に届けても無駄だろう。前回のストーカー被害の時も、なかなか動いてはくれなかった。

今の時点で騒いでも、何も出来ないし、哲に話したら余計に心配されてしまう。受験の邪魔はしたくない。

自分の身は自分で守らないと。
護身術でも習おうかしら。

そんなことを考えながら、お店を後にした。





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