無愛想教師の恋愛事情
俺がじっと理花さんの目を見つめていると…


「せ、先生…怖い」

と、小さな声で呟き、理花さんの目にじわじわと涙が浮かんできた。

「な、何が怖いんですか?」

「先生の目!そんな目で見ないで…」

ワアッと、人目も憚らず、理花さんは泣き出した。
やばい…俺は無意識に生徒に向けるのと同じ視線で見ていた(睨んでいた)らしい!

とっさに、理花さんを抱きしめた。
可哀想なことをしてしまったという後悔と、泣いてる理花さんがあまりにも可愛らしくてたまらないという相反する気持ちから。

「泣かないで。ごめん。真剣になると、ついこんな顔しちゃうんだよ。悪かった。」

しばらく、よしよしと抱きしめながら、理花さんの背中を撫でた。
そうなんだ。彼女は弟妹の面倒をみるしっかりした女性。頼る親もなく、必死で頑張っているけれど、まだ21歳の女の子なんだよなぁ。

「先生…いい匂いする。」

急にぐいと、手で押し返された。

「私、汗臭いから…」

俺は、泣きながらも赤くなり恥ずかしがる彼女を、また抱きしめる。

「大丈夫。汗臭くないよ。それに理花さんの汗なら大歓迎。」

おっと、セクハラか。

「やだ、先生!」
ぽかりと、背中を理花さんの手が叩く。

腕から解放すると、彼女は涙が止まった代わりに唇を尖らせていた。もう…彼女の何もかもが可愛い。

「酷い。何で笑うんですか!?」

彼女も笑いだした。

「いや。可愛いなあと思って。」
「〜〜〜〜〜∥∥。」

いい加減、周囲の道行く視線が気になるので、パーキングに停めた車でアパートまで送っていくことにした。

アパートの前に車を横付けにしてエンジンを切る。

「あのさ。俺は教師としても若造だし、君程苦労もしてきていないから、偉そうなことは何も言えない。
でも、君が悩んだり辛いときに支えるくらいには大人だよ。
一人で抱えてないで、俺にも分けて。」

今度は泣かれないように、優しくゆっくりと伝えてみる。

「ありがとう…。でも…」

「これは教師じゃなくて、一人の男としての提案だから。素直に受け入れてね。」

「わかりました。」

すっかり化粧が落ちて、素っぴんのはにかんだ笑顔が見えた。

天使かと思った。

そうして二人、顔を見合わせて笑っていると…

コンコン…

「早く降りたら?」

そこには、ムッとした表情の哲が、車の側に仁王立ちしていた。




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