無愛想教師の恋愛事情
* * *
先生は、時間も遅いからと部屋に立ち寄らずに、そのまま帰ってしまった。
(結局、何も話せなかった…。)
哲が作ってくれた晩ごはんを食べながら、一之瀬先生のことを考えた。
先生はやっぱり優しい。生徒のことだけじゃなく、その家族のことまで心配してくれて。
本当は、手紙のことを話してしまおうかと思った。
でも、先生がそれを聞いたら、何とかしようとするに違いない。また今以上に負担をかけてしまう。
やっぱり駄目。これ以上甘えてはいけない。
「姉ちゃん、先生と何で一緒に帰ってきたの?」
食後のお茶を飲みながら、哲が聞いてくる。
「あー、それ、あたしも気になる。」
唯も興味津々、身を乗り出してくる。
「たまたまね。偶然に駅前で会ったの。先生、仕事が早く終わったから、唯の勉強見てあげようと思ったんだって。」
「そのわりには、さっさと帰っただろ。」
「お姉ちゃんに会えたから、気が済んだのかなあ。」
唯の軽い爆弾発言に、最初に反応したのが哲だった。
「まさか、姉ちゃん、あいつに付きまとわれてるの?」
「ば、馬鹿言わないで。そんな訳ないでしょ。もう、先生に対して失礼なことばかり言わないで、二人とも。」
否定しながら、何故だか顔が赤くなってしまうから困る。そんな私を、哲は冷ややかな目で、唯はニヤニヤした目で見つめてくる。
「な、なによお!?」
「いや、別に。」
「むふふふっ。」
こんな話してても仕方ない。
私は、残ったお茶を一気に飲み干し、二人を背にして洗い物を始めた。
明日から、駅の行き帰りは走って行こうかな。それとも自転車に乗れば、岡崎という人も手が出せないだろうか。
どうしても気になって、高校の卒業アルバムを開いてみた。何ページか捲って、ようやく岡崎拓也の名前を見つけた。 隣のクラスだった。一度も同じクラスになったことはなく、顔もよく覚えていない。
なんで私なんだろう。不思議で仕方ない。けれど、もし会うことがあれば、はっきり断ろう。
きちんと伝えればわかってくれるよね。