無愛想教師の恋愛事情
毎朝5時半に起きて、哲と唯と自分のお弁当を作る。もう慣れてしまったので然程苦ではないが、中身は毎日似たり寄ったり。それでも、二人は文句も言わずに喜んで食べてくれている。手抜き弁当でも買った弁当よりずっと美味しいのだと口を揃える。
朝食を済ませ、二人を送り出し洗濯物を干し、自分も出勤の準備をする。慌ただしい1日の始まりだ。
結局、昨夜の唯が勉強したかしないかというと…していない。問題集とノートを広げて数分後。唯は格闘する様子も見せないまま呆気なく睡魔に負けた。
「姉ちゃんは甘いんだよ、叩き起こせよ!」
と、哲は言うが、叩き起こしたとて寝ぼけた唯に問題が解けるとは到底思えない。
この子に勉強を期待するのは間違いだろうか。
その頃、密かに頭を悩ませている人間は、他にも存在していた。
一之瀬洋輝、29才。中学の数学教師。独身。
2年付き合った彼女とは約3ヶ月前に別れた。彼女から別れを告げられ…要はフラれた。まあ、それはどうでもいい。
清水 唯。
俺が担任する女子生徒だ。彼女の成績は中学入学して以来、気持ちがいい位の下降線を描いている。
ただの生徒なら、自己責任、自業自得だ。気にもしない。しかし、清水の家庭環境が問題だった。
彼女は幼い頃に母親を亡くし、中学入学前には父親も亡くした。その頃を境に成績が徐々に落ちて今に至る。まだ若い姉一人が保護者として、学生の弟妹二人を支えているらしい。
唯は、明るく朗らかな可愛い生徒だ。男女問わず好かれている。が、しかし、だから問題ないとは言えない。現状の学習に関しての注意と、家庭環境も把握しておきたい。この機会に保護者の姉と面談をしておこうという考えに至り、その面談が昨日だった。
面談の結果は、おおよそ想定内ではあった。
ただ、意外だったのが…姉の理花さんだ。地味な苦労人を勝手にイメージして、脳内で人物像を描いていたが、実際会ってみて驚いた。
なんというか…一言で言えば、
朝露に光る白百合の様な人 …。
長い黒髪に透き通るような白い肌。ぱちりと見開いた優しい瞳。服装は白いシャツにグレーのタイトスカート。飾らない服装だが、彼女が着るとこの上なく上品に見えて…
思い浮かべていたら何故だか顔が赤くなる。思わず両手で顔を覆った。
「 …先生? 一之瀬先生、そろそろ教室行かないの?」
はっ!
「行きます、わ、こんな時間!今すぐ行きます。」
「 ? 珍しいわあ。慌てる一之瀬先生…」
妄想し赤面までしていた自分、今いる場所は職員室だった。
いつも無表情の俺が、ほんのり頬を染めて慌てる様子が相当珍しかったようで、同僚の川崎先生は何度も首をかしげていた。
* * *
昨夜は、あの後、顧問をしている陸上部に顔を出し、残った仕事を片付けてから帰宅した。
俺が住む家は築20年の一戸建て。一人で住んでいる。ローンを払い切った両親は、父方の祖母の介護の為に、父の定年を期に静岡の田舎へ移住してしまった。田舎暮らしが夢だったらしい。一人で住むには広すぎる家に明かりを着けた。
買って帰ったコンビニの袋から、ガサガサと弁当を取り出す。最近のコンビニ弁当は旨い。栄養のバランスもサラダでも付ければ完璧じゃないか。コンビニは優秀だなあ~と思いながら黙々と食べる。熱いコーヒーをマグカップに注いで、一息ついた。
清水唯。どうしたものか。
余裕のある家庭なら家庭教師や個別指導の塾に行かせられる。しかし、清水家の家計では無理だろうな。あの姉の理花さん一人の働きで、高校生と大学生?現実的とは思えない。
俺は一教師だ。出来る事は限られる。勿論、一人の生徒だけ特別扱いも出来ない。じゃあどうする?
幸い出来る兄がいるらしいな。でも兄だって大学受験だ。そう妹の相手も出来まい。
では理花さんが?彼女は仕事と家事でクタクタのはずだ。これもあまり期待は出来ない。
学校で陰ながら見守るしかないのか。何か上手い方法はないものか。
ベッドに横になっても上手い方法は何一つ浮かばず、浮かんでくるのは彼女、理花さんの困ったような可憐な表情だった。
朝食を済ませ、二人を送り出し洗濯物を干し、自分も出勤の準備をする。慌ただしい1日の始まりだ。
結局、昨夜の唯が勉強したかしないかというと…していない。問題集とノートを広げて数分後。唯は格闘する様子も見せないまま呆気なく睡魔に負けた。
「姉ちゃんは甘いんだよ、叩き起こせよ!」
と、哲は言うが、叩き起こしたとて寝ぼけた唯に問題が解けるとは到底思えない。
この子に勉強を期待するのは間違いだろうか。
その頃、密かに頭を悩ませている人間は、他にも存在していた。
一之瀬洋輝、29才。中学の数学教師。独身。
2年付き合った彼女とは約3ヶ月前に別れた。彼女から別れを告げられ…要はフラれた。まあ、それはどうでもいい。
清水 唯。
俺が担任する女子生徒だ。彼女の成績は中学入学して以来、気持ちがいい位の下降線を描いている。
ただの生徒なら、自己責任、自業自得だ。気にもしない。しかし、清水の家庭環境が問題だった。
彼女は幼い頃に母親を亡くし、中学入学前には父親も亡くした。その頃を境に成績が徐々に落ちて今に至る。まだ若い姉一人が保護者として、学生の弟妹二人を支えているらしい。
唯は、明るく朗らかな可愛い生徒だ。男女問わず好かれている。が、しかし、だから問題ないとは言えない。現状の学習に関しての注意と、家庭環境も把握しておきたい。この機会に保護者の姉と面談をしておこうという考えに至り、その面談が昨日だった。
面談の結果は、おおよそ想定内ではあった。
ただ、意外だったのが…姉の理花さんだ。地味な苦労人を勝手にイメージして、脳内で人物像を描いていたが、実際会ってみて驚いた。
なんというか…一言で言えば、
朝露に光る白百合の様な人 …。
長い黒髪に透き通るような白い肌。ぱちりと見開いた優しい瞳。服装は白いシャツにグレーのタイトスカート。飾らない服装だが、彼女が着るとこの上なく上品に見えて…
思い浮かべていたら何故だか顔が赤くなる。思わず両手で顔を覆った。
「 …先生? 一之瀬先生、そろそろ教室行かないの?」
はっ!
「行きます、わ、こんな時間!今すぐ行きます。」
「 ? 珍しいわあ。慌てる一之瀬先生…」
妄想し赤面までしていた自分、今いる場所は職員室だった。
いつも無表情の俺が、ほんのり頬を染めて慌てる様子が相当珍しかったようで、同僚の川崎先生は何度も首をかしげていた。
* * *
昨夜は、あの後、顧問をしている陸上部に顔を出し、残った仕事を片付けてから帰宅した。
俺が住む家は築20年の一戸建て。一人で住んでいる。ローンを払い切った両親は、父方の祖母の介護の為に、父の定年を期に静岡の田舎へ移住してしまった。田舎暮らしが夢だったらしい。一人で住むには広すぎる家に明かりを着けた。
買って帰ったコンビニの袋から、ガサガサと弁当を取り出す。最近のコンビニ弁当は旨い。栄養のバランスもサラダでも付ければ完璧じゃないか。コンビニは優秀だなあ~と思いながら黙々と食べる。熱いコーヒーをマグカップに注いで、一息ついた。
清水唯。どうしたものか。
余裕のある家庭なら家庭教師や個別指導の塾に行かせられる。しかし、清水家の家計では無理だろうな。あの姉の理花さん一人の働きで、高校生と大学生?現実的とは思えない。
俺は一教師だ。出来る事は限られる。勿論、一人の生徒だけ特別扱いも出来ない。じゃあどうする?
幸い出来る兄がいるらしいな。でも兄だって大学受験だ。そう妹の相手も出来まい。
では理花さんが?彼女は仕事と家事でクタクタのはずだ。これもあまり期待は出来ない。
学校で陰ながら見守るしかないのか。何か上手い方法はないものか。
ベッドに横になっても上手い方法は何一つ浮かばず、浮かんでくるのは彼女、理花さんの困ったような可憐な表情だった。