無愛想教師の恋愛事情
今日のお仕事も無事に終わった。
家では今頃、唯が一之瀬先生の指導で勉強に励んでいるはずだ。哲にも事情を話して、早めに帰宅するように頼んでおいた。

唯は一之瀬先生のこと、あまり好きではないようだけど、大丈夫かしら…。7割は嬉しい、残り3割は心配…。
とにかく早く帰らなくては。

* * *

「ただいまー」
玄関のドアを開ければ、見慣れた靴の他に、一之瀬先生の靴らしきスニーカーが揃えてあった。

「お帰り、姉ちゃん。」

哲が小声で呼ぶ。

「二人の様子はどう?」

「ん~、よくわからん。真面目にやってそうだけど。
しかしさあ、あの先生なんで家にまできて個人指導なわけ?ありえなくない?」

「それだけ唯が非常事態ってことじゃないかな。家には私が来てと頼んだのよ。色々お礼も出来るし…。」

「色々って、どんなお礼だよ…」

哲が訝しげな視線を向ける。

「お茶とか、夕食とか…色々よ。」

「まじかよ…」

こそこそと会話をしていると、ドアが開き先生が顔をだした。

「お帰りなさい。お邪魔してました。」

「こんばんは。遅くなりました。唯がお世話になります。」

「今日のところはこの辺で。週明け月曜にまた来ます。」

「先生、お夕飯食べていきませんか?」

「え…いや、悪いです、帰ります。」

「そう言わずに、哲が作るご飯美味しいんですよ…」

「いや、それはさすがに…」


ーーーーー


四人で食卓を囲む。
哲が用意してくれた他に、私も一品だけおかずを作った。

「これ、美味しいなあ。哲君が作ったの?」

「そうだよと言いたいけど、そのチキン南蛮は姉ちゃんだよ。その他は俺だけど。」

「あ、この味噌汁も美味しいなあ、本当…」

慌ててフォローする先生が面白いらしく、唯がケタケタ笑い出した。

「先生、学校の先生と別人だね。面白すぎるー」
先生の頬がうっすら赤らんだ。

「こら、先生をからかわないの。」

「学校での一之瀬先生って、どんななんだよ…。」
哲が、苦々しげに呟く。

「なんで学校では無愛想なの?今みたいな一之瀬先生だったら、先生絶対人気者だよ!?」

「…それが嫌なんだよ…」

「ん?」「え?」

よく聞こえなかった。

「先生は別に好かれなくていいんだ。現状で満足だ。」

「ふ~ん。」
唯は納得したのか、それとも興味がないのか。後者だろう。

「まあ、あれだ。清水、この家庭教師の件は学校で話しては駄目だぞ?秘密だからな?」

「わかってるよ。まあ話しても、誰も信じないけどね。」
「・・・。」





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