君を忘れない~妄想の中の王子様

 結局、ずっと言いたくて言えなかった言葉の核心だけが、唐突に飛び出した。

「あの、ありがとう。」

 それでも、真っすぐにレイの横顔を見て告げた。

「何が?」

 今度はレイが、私を真っすぐに見つめる。

 夜の闇の中、彼の綺麗な瞳に見つめられて、私は、恥ずかしくなって目をそらす。

「浜辺で倒れていたのを助けてくれて。…ちゃんとお礼、言ってなかったから…。」

 少しの間があり、レイは、静かに言った。

「別にいいよ。そんなこと。……俺も遭難、したことあるし。」

「えっ、そうなの?」

「昔な。」

 ボソリと彼が、つぶやいた。
 それから少し、二人とも黙っていた。夏の虫が遠くで鳴いている。
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