先生、解けない問題があるのですが。
長瀬と歩いているうちに、
自分のマンションに着いた。
ま、長瀬ん家のマンションでもあるんだけど。
私の家は、509号室で
長瀬の家は、409号室。
私たちは、乗り馴れたエレベーターに乗る。
あぁ、あと一階上がれば自分の家なのになぁ……と思いながら
エレベーターは4階で止まった。
「そういえば、なっちゃん帰ってきた?」
「あー昨日からいるけど。なんで」
「いや、化学で分かんないとこあるから、教えてもらおうと思って」
「なつきじゃなくて、俺に聞きゃーいいじゃん。」
「………嫌だ。」
「あ''?んでだよ」
「だって………悔しいんだもん。」
「………あっそーかよ!」
「なんで怒るのよ?」
「べっつに、怒ってねぇし?!」
長瀬が玄関の鍵を開けてる間に、
私は時間を確認する。
今は………4時32分。
世界史の宿題はまとめなきゃいけないから、
多く見積もって1時間くらいかかるでしょ?
あとは数学のプリントだから…
まぁ20分で終わるか。
よし。6時までには帰れる!!
「おい」
私が時間の計算していると、
ドアを開けた長瀬が
イライラした口調で私を呼ぶ。
「なにトロトロしてんだよ。早くはいれ」
「はいはい。おじゃましまーー…………あ。」
長瀬ん家に上がった瞬間、停立する私。
あぁ………懐かしい。この匂い。
「………なんだよ。」
「いや、なんか、……長瀬の家の匂いがするなあって」
「変態かよ」
へっ、変っ……?!
違うわよ!!
と前でそう呟く長瀬をぶっ叩いた。
「ってぇな!この怪力女」
「うるさい!トイレ!!!」
「は?!勝手に行ってこいよ!」
「ふんっ!!」
変態ってなによ?!
だって、長瀬ん家の匂いがホントにしたんだもん。なんか懐かしかったんだもん。
なんて思いながら私は、ズカズカとトイレへ向かう。
最近は来てなかったけど、長瀬の家は昔から出入りしてる。
だから、もう一つの自分の家のような感じかなぁ。
ま、マンションだから作りも一緒だしね。しかも、長瀬の部屋と私の部屋、
上下の関係だし。
洗面所で手を洗った後、長瀬の部屋に入る。
と、長瀬の野郎はさっそく
雑誌を見ながら、ゴロンとベッドに横たわっていた。
ったく、
学校では絶対こんな怠けた姿
絶対見せないクセに。
この態度の差っぷりを
キャーキャー言ってる学校の女子達に、見せてやりたいわ。
……にしても、
長瀬の部屋は相変わらず片付いてる。
白と黒で統一された部屋には、
装飾とか、おしゃれなインテリアとかは皆無で、余計な家具も一切ない。
あるのは、ベッドと机と本棚ぐらい。昔からその配置も変わっていない。
……の割には、ブレザーが床に脱ぎ捨てられてるけど。
几帳面なんだか、ガサツななんだか。
コイツは。
私は、荷物を置き、自分のブレザーをハンガーラックにかける。
ついでに、しょうがないから
乱雑に脱ぎ捨てられた長瀬のブレザーもかけてあげた。
さてと。
宿題やってやるかぁ。
と、私が長瀬の机の椅子に座ろうした
瞬間
長瀬はベッドの上から、私に言い下す。
「まず、皿洗いからな」
……………………………はぃ?
宿題だけをやってあげる気でいた私は、
それとは違うことを指図され、思考が一瞬止まる。
まず………?
皿洗い '' から'' ?
だと?
「え、まって。私、あんたの課題だけやるために来たんだけど…?」
「追加命令」
「………はぁあ?!追加とか困るし!予定が狂うんですけど!!」
すると、長瀬の野郎は
起き上がり、足を組み姿勢を変え、雑誌を置いたと思ったら、今度はゲームをし始める。
そして、一言言い放つ。
「フッ、お前の予定なんて知らねぇよ。さっさと従っとけ」
フッ…じゃねぇええー!!!
冗談じゃないよ……!!
「なんで私が長瀬ん家の皿洗いをやらないとならないのよ!
しかもアンタ、普段家事なんてやらないじゃん。」
「今親いないから、なつきと分担してんだよ。
やんねぇとあいつ、すぐブチキレるんだもん」
はぁああああ?!!!
なつきっていうのは、長瀬なつきさん。6歳年上のコイツのお姉さん。
私は‘‘なっちゃん’’って呼んでて、
昔から頼りになる、私の憧れのお姉ちゃん。
去年まではよく、なっちゃんに勉強を教えてもらってたんだけど、
今年から大学院生だから、研究室に泊まり込みが多くて、こっちに帰ってくることなんて、一ヶ月に一回あるかないか。
因みに、長瀬の親はグローバル系の仕事をしてて、4月から海外出張中。
てなカンジでまぁ、長瀬家はエリート一家。
ーーーーって、今はそんな説明してる場合じゃなくてッ!
「それはアンタの担当でしょ?!
私じゃないし!」
「ぶーぶーうっせぇ女だな。お前が賭け負けたんだろ。早く」
そう言い捨てると、
長瀬は、私に背を向けるように横たわり、イヤホンをし、完全シャットダウン状態にしやがった。
このヤロウ……!!
まぁ……でも確かに賭けに負けたのは私なんだし。
しかも、コイツの、情け容赦なく私を働かせる指図も、今に始まったことじゃないし。
仕方がないか。
としぶしぶ台所へ向かう。
早くなつきさん、帰ってこないかなぁ。
そうしたら言いつけてやる!