好き、禁止。
そして次の日、夕方5時前に出勤準備のためバックルームに入ると、まさに今私の頭の中の大部分を占める本人がいた。
今日は退勤時間じゃなくて出勤時間が同じだったかと思い出す。
「おはようございます、佐野さん」
「……おはよう神月くん」
私、どこか変じゃないだろうか。
声のトーンは、挨拶のときの顔は、制服の着方は、ちゃんといつも通りに出来ているだろうか。
「あの」
「えっ!なに!?」
……しまった。
急に話しかけられて思いっきり動揺してしまった。もう帰りたい。
「……この前は突然すみませんでした。その、迷惑でしたよね」
神月くんは少し顔を俯けてそう言った。
一瞬、息が詰まる。
ふと、あの夜、私が神月くんに「好きじゃないから付き合えない」と言って断ったときのことを思い出した。
神月くんはあの時も今みたいに、少し下を向いてしまった。そして、悲しそうな顔をした。泣きそうな、悔しそうな。
初めて見る表情だった。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
神月くんには私なんかよりもっといい人がいるよって、だから考え直したほうがいいよって、そう言いたかったのに。
振ったのは私なのに、神月くんの切ない顔を見ていると、どうして私がつらくなるんだろう。
「めいわく、なんかじゃなかったよ」
「え……」
「私なんかを好きって言ってくれて、ありがとう」
変に取り繕うのはやめよう。単純にそう思えて、自然に笑いながら神月くんを見上げた。
彼に落ち込んでる顔は似合わない。というより、私が見ていたくない。
なんて、落ち込ませた原因は自分にあるのに矛盾している。
「でもね、神月くんにはもっと可愛らしくて、素直な子が……」
「なんですか、それ」
「うん?」
悲しそうな表情から一変、神月くんはちょっと怒ったように私を見下ろした。