好き、禁止。
「私"なんか"って、なんですか」
「え、あの、神月くん?」
一歩、神月くんが近付いてきた。
「どうしてそんなこと言うんですか。俺の前で。俺が佐野さんのこと好きになったのが間違ってるとでも思ってるんですか。他の人じゃ駄目なんです。俺にとっての佐野さんは特別で、他の誰かとは全然違う。代わりになる人なんていないんです」
「え、ちょ、ちょっと、」
特別。代わりなんていない。
たたみかけるように言われて、ひとつひとつ言葉の意味を理解していくと、自分の顔がみるみる熱くなっていくのがわかった。
「ねえ佐野さん。俺は佐野さんのことが好きなんですよ?」
佐野さんのこと"が"、と強調されたように感じたのは多分気のせいじゃない。
また一歩、距離をつめられる。
近い。端正な顔がすぐそこにある。
優しくて穏やかで、だけど逃げられない。
「俺、諦めてませんよ。佐野さんに彼氏がいるとか、俺のこと嫌いとかって言われたら、諦めもつきますけど。そうじゃないんですよね?」
「こうづきく、」
「俺のこと、好きになってよ」
神月くんが少し身をかがめて首をこてんと傾けて、私と目線を合わせてから甘く囁いた。
「好きです、佐野さん」
「――!」
やばい。駄目だ、顔が熱い。
脈が速い。心臓のあたりが、ぎゅーっと狭くなる。
もうこれ以上この空気に耐えられない。そう思うのに、何をどうしたらいいのかがわからない。
何も言葉を返せない私をどう思ったのか、神月くんはふっと笑った。
そして私から数歩離れたかと思ったら、売り場へのドアに手をかけた。
「先に行ってますね」
そう言って、私をバックルームに残して売り場へと姿を消した。
1人になり思わず制服の胸元をぎゅっと掴んで、大きく息を吐き出した。
諦めてないと言った神月くんの甘い声が、いつまでも耳に残って響いている。
やられた。すぐには顔の赤みが引いてくれそうにない。
「いつも通りなんて、やっぱり無理……」
小さく呟いて、その場にしゃがみこんで頭を抱えてしまった。