好き、禁止。
さすがに仕事中は、神月くんは何も言ってはこなかった。
このバイトを始めた当初からそうだけれど、彼はとても真面目に働く。仕事中に誰かを困らせることなんてしないだろう。
ただ、問題は私のほうにあった。
神月くんの顔をまともに見ることが出来ない。
レジで隣に立っているだけで、何回も好きだと言われたことを思い出してしまい、1人で勝手に動揺しているのだ。
どうして告白したほうじゃなくてされたほうがこんなにも振り回されているのかと、なんだか情けなくなってくる。
「いらっしゃいませ」
「あ、佐野さんいたいた」
「こんばんは」
男性客がやって来た。神月くんが初めて出勤した日にも来てくれた、常連客だ。
「この前来たときは佐野さん休みだったみたいで会えなかったからさー」
男性客はそう言って、何も商品を持たないままレジに立っている私に近付いてきた。
たばこだけを買うのか、それとも何か用事があるのかと不思議に思っていると、それまで商品の陳列をしていた神月くんがさりげなくレジに戻って来た。
「どうかしましたか?」
「あのさ、佐野さん今度いつ休み?せっかくこうして話す仲になったんだし、もしよかったらご飯でも行こうよ。あ、もちろん俺のおごり!」
「え……」
これはなんというか、予想外だった。
話す仲といっても、お客様から話しかけられたら無視するわけにいかないからそれなりに会話していただけであって、一緒に食事に行くような間柄だと思ったことは一度もない。
どう断ろうかと考えているうちに、男性客はどんどん話を進めていく。
「ここでバイトしてるってことは、家もこの近くなんでしょ?なんなら全然迎えにも行くし、帰りも送るから」
いっそのこと他の客が来てレジに並んでくれたらいいのだけど、こんな時に限って誰も来ない。