好き、禁止。

「あの、すいませんけど……」

「あ、やっぱいきなりすぎ?でも大丈夫だよ。俺運転も上手いし美味しい店も知ってるから、絶対楽しませてあげられると思うんだけどな」

どうしよう、と思った。
はっきりと断りたいけれど、もしこの男性客が逆上して店に迷惑がかかるようなことになったら。評判が下がったら。

何かいい断り方はないかと考えこんでいると、すぐ隣に誰かが立つ気配がした。

「お客様すみません」

「お?君はちょっと前に入った店員?」

「はい、神月といいます。実は佐野さんは、俺の彼女でして」

「っ!?」

「え、そうなの?」

男性客が驚いている。というか、私も驚いている。
いや、わかってる。これが誘いを断るための嘘で、神月くんが助けてくれていることはちゃんと理解してる。
それでも、あんなことがあった後で彼女だと言われて、ドキドキしないほうがおかしい。と、思う。

「まだ付き合って間もないんですけど。やっぱり目の前で他の男性と食事に行く約束をするのを容認するわけにはいかないというか……。心が狭い彼氏なんですけどね」

はは、と笑って、神月くんが私の頭に手を置いた。
その手が、まるで「大丈夫だから」と言うように、安心させるように頭を撫でてくる。

年下なのに。まだ大学生なのに。
神月くんは、男なのだ。

「なんだそっか~~。じゃあ仕方ないなあ」

「すみません」

「いやいやこっちこそなんかすいません。また何か買いに来ます」

「お待ちしております」

男性が帰っていく。
神月くんが頭を下げて見送っているのを見て、慌てて私も頭を下げた。


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