好き、禁止。
「……ふう。すんなり帰ってくれてよかった。大丈夫でしたか?……佐野さん?」
「あっ、え、うん!大丈夫!」
はっと隣を見上げると、神月くんは優しく笑っていた。
助けられてしまった。神月くんがいてくれてよかった。
「ありがとう。ごめんね、嘘までつかせて」
「いえ、守れてよかったです。それに、嘘でも佐野さんを俺の彼女に出来て……すいません、ちょっと嬉しかったんです」
馬鹿ですよね、一瞬だけなのに。
嬉しそうに笑った神月くんを、つい見つめてしまった。
どうして、そんなにも。
「あれ、何かあった?」
「わ!」
突然、店長がカウンターに姿を現した。
驚いて大きな声を出してしまった私を、店長は不思議そうに見た。
「いえ、大丈夫です。店長はウォークインでドリンクの補充してくれてたんですよね。ありがとうございます」
「いやいや、在庫の確認もしたかったから。それより今日の夜勤の石川くん、10時半から入ってくれるらしいから佐野さんもその時間に帰っていいよ」
「え、宗ちゃんが?」
「この前遅刻したから、その分早く来るってさ」
宗ちゃんはたまにバイトを遅刻する。大学が終わって家に帰って寝すごしてしまうのだそうだ。
だけど時給が高いのでどうしても夜勤メインで働きたいと言っていたのを思い出した。
「神月くんは今日は10時までだったっけ。時間来たら上がってくれていいから」
「わかりました」
それを聞いて、少しだけほっとした。
もし今日の退勤時間が同じで一緒に帰ろうと言われたら、きっと色々と大変なことになりそうだから。
それに、神月くんの告白を受け入れるつもりがないのなら、あまり一緒にいないほうがいいのかもしれない、とも思う。
期待させるだけのような気がするし、神月くんだってきっと次に進めない。