好き、禁止。

……と、思っていたのだけど、私は神月くんを甘く見ていたのかもしれない。

10時半になって退勤し、帰りの準備を済ませてコンビニを出る。
そして従業員用の自転車置き場に行くと、神月くんが座っていた。

「……なにしてるの?」

「あ、佐野さん。お疲れ様でした!」

神月くんは手に持っていたコーヒーを飲み干して、店の前に置いてあるゴミ箱の中に空き缶を入れた。

「30分くらいならと思って、待ってました」

悪さをした子供のように無邪気に笑って、神月くんは当然のように私の自転車をおし始めた。
それから、様子を伺うように私を見た。

「……一緒に帰ってもいいですか?」

「神月くん……」

心配そうに見つめてくる神月くんを見ていたら、なんだかおかしくなってきた。
強気なのか弱気なのかよくわからなくて、ちぐはぐで。

「……いいよ」

気付いたらそう返事していた。
駄目だとわかっているのに。断ったほうがいいと知っているのに。こんな中途半端な態度、傷付けるだけかもしれないのに。

それでも、神月くんが嬉しそうに笑うから。
私まで笑顔になってしまうなんて、どうかしてる。


神月くんが、私のペースに合わせて歩き出す。
ちらっとコンビニの中を見ると、出勤している宗ちゃんがニヤニヤしているのが見えた。

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