好き、禁止。

「じゃあ最初は私がレジ打ちするのを隣で見ててくれる?どんな感じか流れを覚えてもらってから教えていくから」

「わかりました」

午後6時を過ぎると、仕事帰りのOLさんやサラリーマンの客が増えてくる。
朝の通勤時間と違って急いでいる客は少ないものの、戸惑っているとすぐにレジに列が出来てしまうのだ。

「それから、声出しは積極的にね。いらっしゃいませ、ありがとうございました、あとは……ただいまチキンが揚げたてです、とか」

「はい」

そうしているうちに、1人の男性客がレジへとやって来る。
仕事終わりにほぼ毎日来て飲み物を買っていくサラリーマンだった。

「こんにちは佐野さん」

「こんにちは。お仕事お疲れ様です」

名前を覚えてくれているようで、いつもこうして声をかけてくれる人だ。

ペットボトルのジュースと缶コーヒーのバーコードをスキャンして、小さめの袋を1枚引っ張り出す。
そこへ倒れないように商品を入れて、持ちやすいように取っ手を立てて差し出した。

横から視線を感じる。
神月くんは私の一つ一つの動作を刻みつけるように見つめているようで、なんだか少し緊張してしまった。

「疲れてても佐野さんの笑顔見たら癒されるなあ」

「本当ですか?ありがとうございます」

話しながら、トレイに置かれた小銭を数えていく。代金丁度なのを確認すると、レジに打ち込んでレシートを手渡した。

「ありがとうございました、またお待ちしております」

「いつもありがとう」

男性客がひらひらと手を振って帰っていく。
隣で神月くんもありがとうございました、と言いながら頭を下げていた。

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