好き、禁止。
「だいぶ暖かくなってきましたね」
「そうだね」
何度か通った私の家までの道を、神月くんは迷わず歩く。
最近になって思うのだけど、こうしてると本当に彼氏と彼女みたいだ。すれ違う人から見れば、きっとそういう風にうつるだろう。
「神月くん、もう仕事完璧だよね。教えることないなあ」
「だといいんですけど」
「でも、もったいないね。1年で辞めちゃうんでしょ?」
「あ、知ってたんですね」
店長から聞いた話だ。
来年の春には大学を卒業して就職する神月くんは、長くても1年間しかバイトは出来ない。
「でも、俺にとってはすごく大事な1年なんです。少しでも佐野さんと一緒に働けるなら、就職までの残りの1年を何もせずに過ごすなんて選択肢はありません」
「そ、そんな大袈裟な」
どうしてそんなに簡単に、そんなこと言えるんだろう。
動揺しているのを隠すように、神月くんから顔をそらす。
「大袈裟じゃないです。わかってるくせに佐野さん、わざと言わせたいんですか」
「なに、を」
あ、これは駄目なやつ、ととっさに思う。
でも今は夜だから、もし赤くなってもバレないのかもしれない。
「好き、ですよ?」
「う、」
「あはは、困ってるー」
「誰のせいだと……!」
言いかけて、ふと思い付く。
宗ちゃんと飲みにいった時に、いや、最近いつも思っていること。
今、聞いてみようか。
逆に今じゃないと聞けないような気もする。
「ねえ神月くん。ずっと不思議で、聞きたかったことがあるんだけど」
「え、なんですか?」
「私のどこが、その、……好き、なの?」
ああもう、自分で言ってて恥ずかしい。
自意識過剰な奴みたいで、消えてしまいたくなる。