好き、禁止。
恐る恐る横を見ると、神月くんは空を見上げていた。
それは月や星を見ているというよりは何かを思い出しているようだった。
……綺麗な横顔。そう思って、彼が今考えているのは自分のことなのだと思い出す。心臓がまた、どくんと音を立てる。
そのままの表情で、神月くんはゆっくりと話し始めた。
「……佐野さんは忘れてると思うんですけど、2年前ぐらいに会ってるんですよ、俺たち」
「えっ!?」
「一瞬だったし覚えてなくても仕方ないですけどね。むしろはっきり覚えてる俺のほうがおかしいっていうか。まあそれも、その時から佐野さんのこと好きだったからなんですけど」
ん?と思う。
じゃあ神月くんは、2年も前から私のことを好きだったのか。
「俺の大学、佐野さんが行ってた大学なんです」
「そうなの!?じゃあ神月くん、バイトしてなくても私の後輩なんだ」
「はい。……佐野さん、大学四回生の春に後輩に告白されたの覚えてますか?」
「え……?四回生の時……」
大学時代の記憶を必死に辿る。
四回生の春といえば、個人的に悩んでいた時期だった。
周りの友達は次々と就職先を決めて、一歩先を行ってしまう。私は単位はほぼ取り終わっているのにバイトばかりして、自分の未来が全く見えなかった、そんな時期。
「……あ!」
「思い出しましたか?」
「うん。確かあれは……」
唐突に思い出した。
確か、まだ大学の裏庭に桜が残っている頃だった。
その日の講義を受け終わって、1人裏庭のベンチに座って友達を待っていた時のことだ。
「佐野灯里、先輩。ですよね」
そう言って、話しかけてきた男の子がいた。