好き、禁止。
「……ありがとう」
「……」
「加藤くんの気持ちに応えることは出来ない。ごめんなさい」
「はい、それは俺もわかってます」
裏庭の桜が、さわさわと音を立てる。
ベンチに乗っかっている花びらが、風に吹かれて加藤くんの足元へ落ちていった。
「でも、迷惑なんかじゃないよ。言ってくれてありがとう。加藤くんの気持ち嬉しかった」
「え、」
「ほんとに」
そう言って、これが本心だということが少しでも伝わるように笑ってみせた。
加藤くんは一瞬だけ泣きそうな顔をしたけれど、それでも最後には笑い返してくれた。それが彼の精一杯の笑顔だとわかった。
加藤くんは、ぺこりと頭を下げて離れていった。
それを目で追っていると、加藤くんを待っている男の子がいることに気が付いた。
あれは友達だろうか。加藤くんの告白の背中を押して、帰り道に彼が1人にならないように待っていたのだろうか。
「——その友達、俺だったんです」
「ぇえっ!?」
神月くんが照れくさそうに笑った。
「加藤は大学入ってすぐ出来た友達で、ずっと好きな人……が、佐野さんのことだったんですけど、好きな人のこと相談されてて。会えなくなる前に告白したいって言うから、頑張れよって言ったのが俺なんです」
「そうだったの……」
まさか告白されたところを神月くんに見られていたなんて。よく考えたら恥ずかしい。
「その時の、告白を断る佐野さんが……何故かずっと俺の中に残ってた。誠実で、強くて儚くて、笑った顔が頭から離れなかった。なんて綺麗に笑う人なんだろう、って本気で思った」
神月くんが独り言のようにポツポツと言葉を紡ぐ。
「で、気付いたんです。俺はきっと、あの笑顔を俺だけに見せて欲しいんだって」
自転車を押してくれていた手が止まった。同時に、神月くんの足も止まる。
つられるように立ち止まると、真剣な顔と目が合った。