好き、禁止。

何から教えていこうかと、隣に立っている神月くんを見上げると、彼は私の顔をじっと見ていた。
さっきの接客に何か気になるところでもあったのかと思い、首をひねって見つめ返してみると、神月くんははっとしたように目を見開いた。

「どうかした?」

「……あ、いえ。ただ……」

「?」

言おうか言うまいか迷っているのか、神月くんは少し視線をさ迷わせてから、照れたように首の後ろに手を当てた。

「やっぱり佐野さんだな、って……」

「……なにが?」

「佐野さんが、です」

「……はあ?」

言われた意味がよくわからない。
そりゃ佐野さんは佐野さんですよ。

「ど、どういう意味?」

「いや、なんでもないです!気にしないでください!」

「気になるよ……」

今度は顔の前で手をブンブンと振っている神月くん。一体なんだというのだろうか。少しだけ、顔も赤いような気がする。

深く追求してみたい気はしたけれど、客が入ってくるのが見えたのでやめておいた。今は無駄話をしている場合じゃない。
神月くんは今日が初出勤なのだ。私がちゃんと教育してあげないといけない。

「……とりあえず、空いてる時間に少しずつ仕事教えていくから」

「お、お願いします!」

「じゃあまず、レジ袋からね。大きさは5種類あって……」



これからしばらくは神月くんへの教育の日々が続く。
うまく教えていけるか不安もあるけれど、新しいバイト仲間が増えるのは嬉しいことだ。
熱心に私の話を聞いてくれる神月くんを、頼もしく思った。



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