好き、禁止。

「出かけてたんですか?」

「うん、今から帰るところ。神月くんは大学?」

「そうです。それにしてもすごいですね、たまたま会うなんて」

「ほんとにね……」

「今日の講義退屈で疲れてたんですけど、吹っ飛びました。会えて嬉しいです」

何も言い返せず、ふい、と顔をそむけた。
休みの日まで心臓の心配をしないといけないなんて、辛すぎる。

「今日バイト休みでしたっけ?」

「うん。神月くんも?」

「はい。明日は6時から入ってます」

「私は明日は5時から」

「……なんか、週の半分以上佐野さんに会えてる気がします」

神月くんは嬉しそうな顔をする。


”好きって言葉を使わずに好きって伝えます”と言われたことを思い出す。
言われてすぐはどういう意味だろうと思ったけれど、今はわかる。
神月くんが話す言葉の裏側には”好き”という言葉が隠れていて、私は気付かないうちにそれを次々と浴びているのだ。

確かに、好きっていうの禁止!と言ったのは私だ。
だけどそれは、”好き''という言葉を使わなかったらいい、という意味じゃない。私をドキドキさせないで、という意味だったのに。

わかっていないのか、わざとなのか。
何回甘い言葉を言われても、慣れない私が悪いのか。いや、慣れるのも恐ろしいとは思うけども。

「あ、そうだ!」

「なに?」

神月くんが何かを思いついたように顔を上げた。それから、キラキラした笑顔で私を見る。周りに星が見えそうだ。

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