好き、禁止。
「この後もし用事ないなら、ご飯食べに行きませんか?」
わお。なんてナチュラルな食事のお誘いだろうか。さすがすぎる。
「佐野さんの家の最寄駅近くに美味しい洋食屋さんあるの知ってます?俺たまに行くんですけど」
「あ、もしかして駅の裏側にあるとこ?隣が美容室の」
「そうですそうです!あそこ美味しいんですよー」
一度行ってみたいと思っていたお店だ。
特に用事はないし行こうかな、と返事をしかけたところで、体調が怪しいことを思い出した。
今日はもう早く寝たほうがいいかもしれない。でもいまのところそこまで酷くないし、明日のバイト前までゆっくりしてたら大丈夫かな。
1人で悶々と考えていると、神月くんが気まずそうにこう言った。
「すいません、嫌だったら全然、断ってもらっても」
「行く!そのお店ずっと行ってみたいと思ってたの!」
とっさにそう返事をした。
すると、少し落ち込んだ顔をしていた神月くんが、みるみる笑顔になっていく。
それを見て、断らなくてよかったと思った。
神月くんの悲しそうな顔は、出来たらもう見たくない。いつも笑っていてほしい。
「よし、じゃあ決まり!俺のオススメはハンバーグかチキン南蛮です!」
「えー、迷うなあ」
ホームに滑り込んできた電車に2人で乗り込んだ。
近くにいた大学生の子達がチラチラこっちを見ていたような気がしたけれど、気付かないふりをすることにした。