好き、禁止。
あったかい。
体がふわふわ宙に浮いているような感覚がする。それに、ゆらゆら揺れていて心地いい。安心する。
顔を埋めると、なんだかドキドキする匂い。
ここはどこだろう。
「ん……」
「あ、気が付きました?」
「……んん?」
ゆっくりと目を開ける。
眩しく……ない。そうか、今は夜だ。
頭を持ち上げて首を動かす。
目の前には、誰かの背中。あったかいと思ったのは人の体温だったらしい。
じゃあこの、ドキドキする匂いは?
「大丈夫ですか?」
この声は……。
うん、よく知ってる。
いつも私を惑わせて、逃げられなくする声。
これは、神月くんの。
「……ん?」
ぱちっと目が開いた。
そして、自分が今おかれている状況を把握するまでに少し時間がかかった。
体が宙に浮いている。ゆらゆら揺れている。
それもそのはずだ。何故なら今私は、誰かにおんぶされているから。
誰に?この匂いと声の主に。
この匂いと声は誰のもの?
私をドキドキさせる、たった1人の……。
「っっっっ!?」
「ちよっ、佐野さん、暴れないでください……!」
「え、なんで、どうして」
あろうことか、私は今神月くんにおんぶされているのだった。
意味がわからないし、とてつもなく恥ずかしい。どうしてこんなことになってるのか。
「とりあえずもうすぐ佐野さんの家なんで、もうちょっと我慢してください。ふらふらされても困るので」
「私の家?」
辺りを見渡してみると、確かに私の家の近くのようだった。
住宅の部屋の電気がほとんど消えているので、もう夜中なのかもしれない。
「ほら、もう着きますよ」
「う、ん」
どうしてこんなことになってるんだって。
覚醒したばかりの頭で考えても、上手く思い出せない。
「家の鍵、どこですか?」
「あ、えと、鞄の中に」
神月くんは私の家の前で私を降ろして、鍵を出してくれた。