好き、禁止。
「……大切過ぎて、どうにかなりそうです」
おどけたようにそう言いながらゆっくりと体を離して、私と目を合わせた神月くんはようやく笑った。
「熱、うつっちゃうよ」
「いいですよ、俺にうつしてください」
「駄目だよ」
「ていうかもう、どっちみち手遅れですよ。ここまでおぶって帰ったんですから」
神月くんの言う通りだ。
これで本当に神月くんにうつってしまったら、今度は私が責任持って家まで送ってあげないと。
そう考えて、あれ?と思う。
私、神月くんの家知らない。
でも確か、バイトは電車で来てたような気がする。と、いうことは。
「ねえ神月くん」
「はい?」
「もう終電ないね」
「……あ」
神月くんは部屋の壁にかけてある時計を見上げて、ほんとだ、と呟いた。
というか日付もとっくに変わっている。
「ごめん、私のせいで……」
「いいですよ、タクシー拾うんで」
そう言って立ち上がろうとした神月くんを、とっさに引き留めた。
「元はと言えば私のせいだし、タクシー代もったいないよ。神月くんさえよかったら、泊まっていく……?」
「えっ……」
神月くんは、わかりやすくフリーズした。困らせてしまっただろうか。
そんなつもりは全然なくて、ただ本当に申し訳なさから来た気遣いだったのだけど。
「ほら、私ソファーで寝るからベッド使っていいし。ね?」
「病人をソファーで寝かせるわけないじゃないですか!」
「でも……」
だんだんしんどさもマシになってきているし、大丈夫だと思うんだけど。
そう言うと、呆れたようにため息をつかれてしまった。