好き、禁止。
「佐野さん、無防備にも程がありますよ」
「や、あの、嫌だったら全然……」
「そうじゃなくて。……ああもうわかりました。じゃあ一晩お言葉に甘えて、佐野さんの看病をすることにします」
開き直ったようにそう告げた神月くんは、自分のリュックを開けて中身をガサゴソし始めた。
私をおんぶしてくれていた時はリュックは前に背負っていたのかな、とぼんやり思った。
リュックからは、いつの間に買ったのか、薬や冷えピタが出てきた。
「ええ?平気だよ」
「平気じゃありません。食欲はありますか?何か食べたほうがいいと思うんですけど。一応ゼリーかプリンだったら帰る前に店で買っておきました」
「……じゃあ、プリンを頂きます……」
遠慮がちに言うと、神月くんは嬉しそうな顔をした。
そして、プリンの蓋とスプーンを封を開けて、ひとすくい。
「はい、あーん」
「自分で食べられます!」
「えー残念。はは、でもよかった。ちょっと元気になりましたね」
だから平気って言ったのに。
もし私がもうすっかり元気で看病する必要がなければ、神月くんは泊まらずに帰っていくのだろうか。
なんて、そんなの当たり前か。
プリン美味しい。
「綺麗な部屋ですね」
神月くんがきょろきょろと部屋の中を見渡している。プリンに気をとられていて気付かなかった。
「あ、あんまり見ないで、恥ずかしいから」
物が少ないから散らかっているわけではない。昨日休みだったから掃除もしてある。
だけど恥ずかしいものは恥ずかしい。
神月くんとは何度か私の家まで一緒に帰ったけれど、家の中まで入ったのは今日が初めてだ。
思えば、男の人がここに来たのも初めて。